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トニー・メダワー編“Bodies from the Library 2”

 昨年刊行されたトニー・メダワー編“Bodies from the Library”の続刊“Bodies from the Library 2”が刊行された。前回と同じく、過去に一度掲載されただけか、一度も日の目を見たことのない、黄金時代の巨匠たちの短編を集めるという方針のアンソロジー。
 収録作品は以下の15編。

クリスチアナ・ブランド No Face
ピーター・アントニイ Before and After  使用前、使用後(EQ97年5月号収録)
ヘレン・シンプスン Hotel Evidence
Q・パトリック Exit before Midnight
マージェリー・アリンガム Room to Let
ジョナサン・ラティマー A Joker’s a Joke
アガサ・クリスティ The Man Who Knew
S・S・ヴァン・ダイン The Almost perfect Murder Case  ほとんど完全犯罪─ヴィルヘルム・ベッケルト事件(『ファイロ・ヴァンスの犯罪事件簿』論創社収録)
エドマンド・クリスピン The House of Darkness
E・C・R・ロラック Chance is a Great Thing
クレイトン・ロースン The Mental Broadcast
エセル・リナ・ホワイト White Cap
ジョン・ロード Sixpennyworth
C・A・アリントン The Adventure of the Dorset Squire
ドロシー・L・セイヤーズ The Locked Room

 主だったものだけ出典等を紹介すると、クリスティのThe Man Who Knewは、ジョン・カラン編Agatha Christie’s Murder in Making(2011)所収の再録。
 クリスピンThe House of Darknessは、ジャーヴァス・フェン教授登場の未刊の中編。
 ロースンThe Mental Broadcastは、ジェイムズ・G・トンプスン編My Best: The Best Tricks from the Best Brains in Magic(1945)所収のマーリニものの短編で、マーリニものの中短編を集めたThe Great Merlini(1979)には未収録。
 ロードSixpennyworthは、地方のアマチュア演劇団のために書かれた台本で、ワグホーン警部と妻のダイアナが登場。
 セイヤーズThe Locked Roomは、米イリノイ州ウィートン大学に収蔵されていた未刊のウィムジイ卿ものの短編。

 さらに注目されるのは、クリスチアナ・ブランドには、死の直前まで取りかかっていたコックリル警部ものの未完作があり、2020年にクリッペン&ランドリュから刊行が予定されているというアナウンスか。
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オースティン・フリーマン “The Exploits of Danby Croker”

 オースティン・フリーマンには、非ソーンダイクもののシリーズ・キャラクターが何人かいるが、ダンビー・クローカー氏もその一人。クローカー氏は犯罪者で、ナゲットという自分とそっくりの青年にすり替わった結果、自分がやってもいない強盗の罪で刑務所にぶち込まれるが、指紋を採取される前に脱獄。チェリーニのメダリオンを偽造したり、ナゲットの指紋を偽造して老婦人の家に押し入ったりと悪事を重ねる。全12編からなるシリーズ。
 1911年に「レッド・マガジン」というパルプ雑誌に連載され、1916年にダックワース社から単行本として刊行された。
 雑誌版で挿絵を描いているのは、ゴードン・ブラウン。ここでは、「レッド・マガジン」1911年2月15日号に掲載された第一篇‘The Changeling’の挿絵をご紹介しておく。


        Danby Croker 1


        Danby Croker 2


        Danby Croker 3

クリフォード・アシュダウン “From a Surgeon's Diary”

 オースティン・フリーマンがJ・J・ピトケアンとの共著で、クリフォード・アシュダウン名義でカッセルズ・マガジンに連載した“The Adventures of Romney Pringle” は、1902年に英ウォード・ロック社から単行本化され、「クイーンの定員」にも選ばれている。
 シリーズの続編“The Further Adventures of Romney Pringle”は、翌1903年にカッセルズ・マガジンに連載されたが、これは著者生前に単行本化されることはなく、1969年に米オズワルド・トレインからようやく刊行された。
 フリーマンとピトケアンの二人は、さらに、カッセルズ・マガジン1904年12月号から1905年5月号にかけて、ウィルキンスン医師を主人公とする探偵譚“From a Surgeon's Diary”のシリーズを連載している。これも、1975年に英フェレット・ファンタジーからようやく単行本として刊行された。
 ノーマン・ドナルドスンは、このシリーズをプリングルのシリーズよりも真面目で優れたものと評価している。ウィルキンスン医師は、いわば、ソーンダイク博士の原型と言えるだろう。
 ここでは、カッセルズ・マガジン1904年12月号に掲載された‘The Adventure at Heath Crest’の挿絵をご紹介する。画家は、パーシー・ベル・ヒックリング。先年邦訳の出た『隅の老人【完全版】』(作品社)に掲載された挿絵を描いている画家でもある。

       Surgeon's Diary 1


       Surgeon's Diary 2


       Surgeon's Diary 3

フランク・ワイルズが描くソーンダイク博士の肖像

 今月の「ミステリマガジン」に掲載された「シャーロック・ホームズ講座」を読むと、シドニー・パジェットが描いたホームズの肖像が後世にいかに大きな影響を与えたかをあらためて実感する。ホームズを演じたジェレミー・ブレットも、パジェットの挿絵そっくりに演じていたというのも大変興味深い。
 同じように、ヘンリー・マシュー・ブロックが描いたソーンダイク博士の肖像も、その後の博士のイメージを完全に決定づけたようだ。フリーマン自身が称賛しただけでなく、その後の挿絵画家たちもブロックの描いた博士の肖像の呪縛から逃れられなかった。
 以下に掲げるのは、ピアスン誌1925年2月号収録の‘The Seal of Nebuchadnezzar’に掲載された、フランク・ワイルズが描いたソーンダイク博士。ノーマン・ドナルドスンがオムニバス版に寄せたまえがきとあとがきを収録した“Donaldson on Freeman”のカバーにも用いられている。
 当ブログのプロフィール欄にも掲げてあるソーンダイク博士の肖像は、ブロックが「青いスパンコール」で描いた博士の肖像で、いろんなところで用いられている有名なものだが、ワイルズの描いた博士の肖像は、手の動きまでこのブロックの肖像にそっくりだ。


       Thorndyke by Wiles

マクルーア誌版「青いスパンコール」

 以前の記事で紹介したように、米マクルーア誌にソーンダイク博士物の短編が1910年から1911年にかけて連載された。
 「青いスパンコール」は、1910年6月号に掲載。挿絵を描いているのは、ヘンリー・ローリー。
 ピアスン誌で挿絵を描いたH・M・ブロックによる端整な顔立ちのソーンダイク博士とは大きく異なり、モノクルをかけた、いかつい顔つきのソーンダイクだ。


     Blue Sequin 1


     Blue Sequin 2


     Blue Sequin 3


     Blue Sequin 4


     Blue Sequin 5

オースティン・フリーマン「文字合わせ錠」

 R・オースティン・フリーマンの短編集“The Puzzle Lock”(1925)の巻頭を飾る標題作「文字合わせ錠」は、レイモンド・ボンド編『暗号ミステリ傑作選』(邦訳は創元推理文庫)にも収録された暗号ミステリの傑作。
 英ホダー&スタウトン社初版には、口絵として「ラットレル氏の印章」の写真が掲載されている。
 ピアスン誌1925年3月号に掲載された際には、その写真のほか、ミラー警視がその印章による封印から採った蝋型の写真も掲載されている。
 挿絵を描いているのは、フランク・ワイルズ。
 フリーマンの暗号もの短編としては、ほかに、「モアブ語の暗号」、「青い甲虫」があるが、ボンドも述べているように、本作は「この三篇のなかでも最高の傑作」である。「もともと大胆で炯眼なことでは天賦の才をそなえた博士だが、これほど俊敏に驚くべき形でその才を発揮した作品は、ほかには見当たらないし、これほど完璧なまでに息をのむような結末を期待できる作品も、ほかにはないだろう。」(大久保康雄訳)


     Puzzle Lock1


     Puzzle Lock2


     Puzzle Lock3


     Puzzle Lock4


     Puzzle Lock5


     Puzzle Lock6

フリーマン『キャッツ・アイ』の書評が「ミステリマガジン」5月号に

 若林踏氏によるR・オースティン・フリーマン『キャッツ・アイ』(ちくま文庫)の書評が、「ミステリマガジン」2019年5月号に載りました。
 「・・・本作は事件にまつわる情報が次から次へと増えていく。この情報の洪水を上手く処理し、ひとつの綺麗な構図に再構築できるかが鍵になるのだ。事実を着々と重ねていく推理に美しさを感じる読者には堪らないものがある」と述べておられます。
 最終章「証明終わり(Q・E・D)」におけるソーンダイク博士の推理をプロットの中心と捉え、冒険小説的な展開の中にもロジックの緻密さをしっかりと貫くフリーマンの特長を的確に評価していただいたのは、我が意を得たりという思いです。
 

 なお、新保博久氏も別にレビューを立てておられるが、これはむしろ、主に1929年に出た『猫眼石』についてのレビューのように思える。新保氏はこれを「立派な翻訳」と評価しておられるのだが、たとえば、「あなたを人殺しの巣窟にしれっと入っていかせたことで、ソーンダイク博士に食ってかかりたい気もするけど」(ちくま文庫352頁)というウィニーのセリフが、「かうやって恐ろしい悪人の巣窟の中を貴方と御一緒に無事に歩けるのもあの方のお蔭ですものねえ」となっているなど、意味を真逆にしながら辻褄のあった流れにしてしまう箇所もあちこちにあって、確かに、ある意味、名人芸の訳かもしれないと思う。ソーンダイクが最後に火をともす描写が出てくるだけのトリチノポリ葉巻を、章の最初のほうで「紫煙が彼の口許の邊からただよいはじめた」と、さっさとふかす設定に変えてしまうなど、ほとんど翻案の域に近い面もあって、私からすると、こんなのに比べれば、第一章の章題を「人生の眞中にて」としていることぐらい、たいしたことではないようにすら思えるのだが、新保氏はそうは思われないらしく、「ほかにはひどい誤訳も目につか」ないそうだ。「文字数だけ」で評価するとそうなるのかもしれない。もちろん、昭和4年という時代を考慮すれば、開拓的な業績として評価する点で私も異論はない。

ジョン・ロード『クラヴァートンの謎』が刊行

 ジョン・ロード『クラヴァートンの謎』(1933)が論創社から刊行されました。

 「急逝したジョン・クラヴァートン卿を巡る不可解な謎。遺言書の秘密、不気味な降霊術、介護放棄の疑惑……。果たして彼は“殺された"のか?」

 ジャック・バーザン&ウェンデル・H・テイラー、チャールズ・シバク&ビル・プロンジーニ、H・R・F・キーティングなど、多くの名だたる批評家からロードの傑作・代表作の一つとして評価された長編。
 多くの読者の皆様に楽しんでいただけることを願っております。

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       クラヴァートンの謎

フリーマン『ニュー・イン三十一番の謎』におけるトラック・チャート

 今月、論創社から刊行されたR・オースティン・フリーマン『ニュー・イン三十一番の謎』には、著者がまえがきで述べているように、フリーマン自身がアフリカ滞在中に考案した方法によるトラック・チャートが用いられ、第8章にそのイラストが掲載されている。
 The Thorndyke File No.5(1978春)の中で、マイケル・G・ヒーナンが、ウォード・ロック社の1909年版のロンドンの地図を基に、そのチャートがいかに正確に実際のロンドンの街路に当てはまるかを裏づけている。まえがきで自慢しただけのことはあったわけだ。


        フリーマンによるイラスト
       Track Chart


        ヒーナンによる地図への適用
   Map



      31 New Inn
        英ホダー&スタウトン社初版



アルバート・フィニイ逝く

 名優アルバート・フィニイがロンドンの病院で2月7日に亡くなった。死因は胸部感染症。享年82歳。
 言うまでもなく、映画「オリエント急行殺人事件」(1974)でエルキュール・ポワロを演じた俳優である。同作で米アカデミー賞の最優秀主演男優賞にもノミネートされた。ここでは省略するが、ほかにも数々の名演があり、主演男優賞に4回、助演男優賞に1回ノミネートされている。
 ポワロを演じた俳優には、チャールズ・ロートン、ピーター・ユスチノフ、デイヴィッド・スーシェ、最近では、ケネス・ブラナーなど、名だたる名優が名を連ねているが、原作のポワロの描写に最も近いというだけでなく、叡智を秘めた優れて知的なポワロを演じてみせた点でも、フィニイのポワロを超える演技は未だかつてないと言ってもいいほどだ。
 優れた演技で多くのミステリ・ファン、クリスティ・ファンを楽しませてくれた名優に心からご冥福をお祈り申し上げたい。
プロフィール

S・フチガミ

Author:S・フチガミ
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