リレー長編の元祖 コナン・ドイルほか “The Fate of Fenella”

 “The Fate of Fenella”(1892)は、コナン・ドイル、ブラム・ストーカーなど英国の24人の作家が執筆に参加したリレー長編。一人の作家が一章を担当し、各作家は全体のプランを立てるための事前の打ち合わせはせず、続きをどう書くかは次の作家に委ねて引き継ぐという構想で執筆されたものだ。
 これは女性向け週刊誌『ザ・ジェントルウーマン』を発行していたロンドンの出版業者ジョゼフ・スネル・ウッドが企画したものであり、本作は1891年11月から翌年5月にかけて同誌に連載され、単行本としても同5月に刊行された。

 24歳のフェネラ・フレンチは、6歳の息子ロニーとハロゲイトのプロスペクト・ホテルに滞在していたが、別れた夫のフランシス・オンスロウ卿とそこでばったりと出会う。
 彼女は17歳の若さでフランシス卿と結婚し、ロンドンの社交界にデビューしたが、その美しさでセンセーションを引き起こし、付きまとう男性が絶えなかった。そんな状況の中、フランシス卿は年長のフランス人女性、ド・ヴィニー夫人と親しくなってしまい、その事実を知ったフェネラのほうもオーストリア人のド・ミュルガー伯爵に心の慰めを求めてしまう。
 その諍いをきっかけに別れた経緯のある二人だったが、当時は二人とも若かったこともあり、ハロゲイトで再会して接するうちに打ち解けていく。ところが、フランシス卿はそこでド・ヴィニー夫人にも出くわし、夫人は、フェネラが先週、ド・ミュルガー伯爵と公園で一緒にいるところを目撃したと告げる。
 そんな中、フェネラが滞在していたホテルの部屋にド・ミュルガー伯爵が忍び込み、彼女は身を守るために伯爵を刺殺するという大事件が起きる・・・。

 参加した作家たちは当時の人気作家だったようだが、そのほとんどは既に忘れられた存在であり、今日読み継がれている作家は、コナン・ドイルと『吸血鬼ドラキュラ』の原作者ストーカーぐらいのものだろう。
 作品のジャンルとしては、センセーショナル・ノベルに属するものだが、意外と推理小説的な要素もあり、大団円では、それ以前に書かれた推理小説の古典からアイデアを借用したりもしている。
 ドイルは、ド・ヴィニー夫人がハロゲイトに現れ、フランシス卿にフェネラとミュルガー伯爵のことを告げ口したり、フランシス卿がそのことでフェネラに詰めよる場面などを描いていて、劇的な演出を工夫しようと努めているのが感じられるが、作家によっては、どうでもいい会話や場面の描写で執筆担当部分を埋めている章もある。
 事前の打ち合わせなしに既存の執筆部分を前提に書き継ぐというのは、アイデアとしては面白いのだが、作家の立場にすれば、全体プランは白紙のままで、他人が書いた内容に制約されて書くというのは、自立した作家としてモチベーションも上がらないだろうし、やっつけ仕事になる者が出てくるのも仕方がない面がある。
 プロットも、全体プランなしに場当たり的に書き継いでいるため、ド・ミュルガー伯爵の殺害というセンセーショナルな事件が起きても、容疑者のフェネラは正当防衛ですぐ釈放されてしまうなど、前の作家がせっかく作り出した設定が十分展開されないまま尻すぼみになったりして、どうしても一貫性が欠けてしまう。
 ド・ヴィニー夫人が実は大悪党で、フェネラの息子ロニーを誘拐してニューヨークにとんずらしたり、夫人の計略にはまってフランシス卿が精神病院に収監されてしまったりと、場面や登場人物の性格が猫の目のようにくるくる変わって当惑させられるし、ロニーの救出劇あり、船の沈没と脱出劇ありと、まるでクリフハンガー物のような演出もあるが、場当たり的なものだから、感心するより呆気にとられてしまう。(こんな「運命(fate)」に翻弄されてはたまったものではない。)あげくに、ラストでは、ド・ミュルガー伯爵殺害の意外な真相が明かされ、実は謎解きだったのかい、と読み終えて呆然とさせられる始末である。一言で言えば荒唐無稽なのだが、それも執筆の手法からすればやむを得ない結果なのだろう。
 のちにディテクション・クラブが企画した『漂う提督』をはじめとする一連のリレー長編の元祖ともいえるが、同作におけるセイヤーズの序文を読んでも、“The Fate of Fenella”には言及していないし、その影響を受けた企画だったのかどうかは不明だ。
 『漂う提督』は、全体プランを決めておかない点では“The Fate of Fenella”と共通しているが、各作家は書きっぱなしにするのではなく、自分なりの解決を構想して執筆することを義務付けられていたし、解決部分を執筆したアントニイ・バークリーが練達のまとめ上げ方で収拾を図ったため、かろうじて一貫性を維持していたように思える。
 “The Fate of Fenella”は話題性を追求しただけの看板倒れに終わった感が否めないが、その構想自体は、『漂う提督』の例にみられるように、執筆の手法に工夫を加え、参加する作家の力量さえ揃えば、うまく活かすことができたのかもしれない。実験的な試みとして歴史的な意義は認めていい作品だろう。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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