ローレンス・G・ブロックマン ‘Death by Drowning?’

 ‘Death by Drowning?’は、Ellery Queen’s Mystery Magazineの1965年4月号に掲載された、ダニエル・ウェブスター・コーヒー博士物の短編。単行本未収録作である。
 コーヒー博士は、ノースバンクのパストゥール病院に勤める病理学者。その第一短編集“Diagnosis: Homicide”(1950)は、「クイーンの定員」に選ばれている。
http://fuhchin.blog27.fc2.com/blog-entry-72.html参照

 バート・ウィンクラーは、ノースバンクの労組のボスで、キュウリやトマトなどの野菜の収穫時期が来ると、トラック運転手たちにストを起こさせていた。事態を収拾して、中西部の食品加工業者に農産物を無事運搬できるかどうかは、彼の一存にかかっていた。ウィンクラーはこうして関係者から金をせしめていたが、生産者からも食品業者からも怨嗟を買っていた。
 ある六月の夜、ウィンクラーは溺死体となって川から引き揚げられた。ウィンクラーの乗ったジャガーが川に飛び込んだ音を二ブロック離れたところにいた夜間警備員が聞きつけ、事故に気づいたのだった。
 検死官は、事故による溺死であることは明白であり、検死審問の必要すらないと判断するが、マックス・リッター警部補は、どうしても納得できず、ウィンクラーの遺体をコーヒー博士の病院に運び込む・・・。

 ショートショートに近い短さであり、レギュラー・メンバーであるインド人の助手、ムーカージ博士は、本作品には登場しない。法医学上の専門知識を駆使してはいるが、プロットはいつもながらシンプルにまとまっていて、着地点がきれいに決まる結末が楽しい。
 第一短編集以来のシリーズの特徴を踏まえ、いったんは事故死と判断された事件が、コーヒー博士の手にかかると、実は他殺という結論が出るというパターンを踏襲している。フーダニットとしてのプロットもうまく組み立てられていて、作中に出てくるゲトラー・テストのなんたるかが分からなくとも、テストの結果からなにが引き出されるかは十分予測することができ、そこから犯人を特定することも読者には可能だ。
 コーヒー博士物の短編は佳品ぞろいなのだが、単行本未収録作品だけでも、一冊の短編集が編めるくらい残っており、放置されたままなのが残念だ。我が国では、“Diagnosis: Homicide”と第二短編集の“Clues for Dr. Coffee”すら全訳されておらず、その魅力が十分紹介されていないのは惜しい限りである。


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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

ローレンス・G・ブロックマン ‘Dr. Coffee and the Amateur Angel’

 ‘Dr. Coffee and the Amateur Angel’は、本国版EQMM1971年10月号に掲載されたコーヒー博士物の中編。
 なお、この号は、ジョン・L・ブリーンのエド・ゴーゴン物の第一作「ダイヤモンド・ディック」、エドワード・ホックの「レオポルド警部の密室」、ローレンス・トリートのミッチ・テイラー物の‘R as in Rookie’の初出誌でもある。

 匿名の電話を受けて警察がノースバンクの病院に急行すると、ヴァージニア・ヴォートという女性の整形外科医が、5階にある自分の診察室で殺害されていた。死因は絞殺だった。殺人課のマックス・リッター警部補は、すぐさまコーヒー博士に検死を依頼する。
 犯行時は既に診療時間外だったことから、受付係もいなかったが、エレベーター・ボーイの証言から、ヴォート医師の階に降りた最後の人物が、ブッカー・T・ワシントン・ジョーンズという、かつてのノースバンク大学のフットボール選手だと分かる。しかも、ジョーンズは帰るところを目撃されておらず、容疑者として逮捕される。
 ジョーンズは、大学卒業後、ベトナムで従軍したが、足に重傷を負い、ヴォート医師に治療してもらったことがあった。しかし、鎮痛剤として用いたモルヒネの後遺症で麻薬中毒となり、ノースバンクに戻ったあとも事件を起こしていた。ヴォート医師は、新聞でジョーンズの事件を知り、彼が麻薬中毒になった責任を感じて身元保証人となり、執行猶予となったジョーンズの治療に当たっていたのだった。
 ヴォート医師は、コーヒー博士にとっても、パストゥール病院で面倒を見た同僚医師であり、いつもと違って、心穏やかに検死解剖に臨むことができなかった。死因は明らかに絞殺だったが、コーヒー博士は、死体の手の爪から、犯行時に抵抗して相手の体を引っ掻いた付着物を採取する・・・。

 ヴォート医師が離婚を繰り返していて、元夫が複数容疑者として浮上するなど、中編のボリュームに応じて、やや複雑な面はあるが、根幹となるプロットはいつものようにシンプルにまとまっている。ただ、血液検査から犯人を特定するプロセスはなかなか興味深いのだが、その法医学上の知識は今でも決して時代遅れではないとしても、現在であれば、DNA検査でもっと確実に容疑者を絞り込んでしまうだろうな、と誰しも思うところだろう。
 法医学の目覚ましい進歩は、こうした知識をプロットに活用した作品をあっという間に時代遅れにしてしまう面があり、法医学をベースにしたミステリとしては先輩に当たるオースティン・フリーマンの‘The Pathologist to the Rescue’も、同じく血液検査をプロットに用いた作品だったが、今読めば、あまりに古色蒼然とした時代性を感じてしまう。(今をときめくパトリシア・コーンウェルのケイ・スカーペッタのシリーズにしたところで、50年後には、さて、どう評価されているだろうか。)
 1970年代に書かれた本作ですら、既に時代的な制約を感じさせるのだが、それを欠点として消極評価するより、そうした時代の作品であることを了解しつつ、謎解きを堪能するほうがよほど楽しいというものだろう。フリーマンの作品もそうだが、前提となる血液の特性は、今でも決して常識として知られているものではないし、こうした知識をうまくプロットに取り入れた作者の工夫を素直に評価したいところだ。


EQMM71-10

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

ローレンス・G・ブロックマン ‘Goodbye, Stranger’

 ‘Goodbye, Stranger’は、本国版EQMM1964年10月号に掲載された、単行本未収録のコーヒー博士物のショート・ショート。
 なお、この号は、コーネル・ウールリッチの「万年筆」を再録しているほか、ローレンス・トリートのミッチ・テイラー物の‘D as in Detail’の初出誌でもある。

 瀕死の男が、コーヒー博士の務めるパストゥール病院に運び込まれ、入院していた。男はジェイムズ・ドークネス名義の運転免許証を所持していたが、マックス・リッター警部補が調べると、当のドークネスは一年前にひき逃げ事故で死亡していた。
 男が運び込まれたのは週末で、コーヒー博士はその間不在にしていたが、リッター警部補から調査を依頼される。コーヒー博士が担当のグリーン医師に確認すると、男は入院した初日は時おり意識があったが、その後、黄疸を発症して昏睡状態に陥り、肝炎にアルコール中毒を併発しているという診断を下されていた。グリーン医師の話では、男は意識のある時に、「毒を盛られた。あの女が盛ったんだ」と繰り返していたという。
 男を見つけて救急車を呼んだのは、アイリーン・オズボーンというブロンドの美女で、彼女の話では、シャワーを浴びている時にドアベルが鳴り、隣の家の女友だちが来たと思い込んだ彼女は、身支度をしてから階下におりると、男が意識を失ってソファに横たわっているのに気づいた。男はおう吐していたが、恐慌に陥った彼女は隣家の友人に助けを求め、おう吐物も掃除してしまったという。
 男はその夜に死亡し、コーヒー博士は検死解剖を行うが、死亡までに三日経過していたため、ヒ素以外のアンチモンや水銀のような毒物は、仮にあったとしても既に体内からほとんど消えていたし、ヒ素も検出されなかった・・・。

 短い作品でもあり、レギュラー・メンバーのムーカージ博士は登場しない。コーヒー博士は、検出されたある毒物の特性から、毒物の入手経路と被害者に気づかれずに毒を盛った方法を突き止める。いつものようにプロットはシンプルで、伏線もうまく張ってあるが、ある程度の専門知識がないと一般読者には容易には見抜けないだろう。なお、作中で言及のあるラインシュ法というヒ素検出に用いられるテストは、フリーマンの作品でも何度か詳細なプロセスが描かれている、おなじみのテストだ。
 珍奇な毒物や奇抜な毒殺法をプロットの売りにするのではなく、謎解きの手がかりとして毒物の特性を利用するところが、いかにもブロックマンらしい。


EQMM64-10

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

ローレンス・G・ブロックマン ‘Missing: One Stage-Struck Hippie’

 ‘Missing: One Stage-Struck Hippie’は、エラリー・クイーンのアンソロジー“Aces of Mystery”(1975)に収録された、ダニエル・ウェブスター・コーヒー博士物の中編。初出は本国版EQMM1970年9月号である。

 タイベリアス・ブラウンという男が、マックス・リッター警部補を訪ねてきて、行方不明のフィアンセを探してほしいと依頼する。ブラウンは、カリフォルニアの大学で演劇を教える講師で、フィアンセのフィリス・エマースンは、彼の学生であり、役者でもあった。彼女は、ドン・サザーランドという夏季芝居公演の監督から端役をもらったため、6週間前にノースバンクに行ったが、1日おきに手紙を書くと約束したのに、十日ほど前からぷっつりと音信不通になり、電話にも出ないという。
 殺人課の案件とは思えなかったが、リッター警部補は不安になり、サザーランドにも当たり、彼女が偽名でホテルに泊まっていたことを突き止める。サザーランドによれば、彼女はリハーサルの途中で吐き気を催して役から降りてしまい、その後劇場にも来なくなったという。
 彼女が泊っていたホテルを調べると、部屋は彼女が滞在していた時のままで、警部補は、電話帳の表紙に二人の医師の名が記されているのを発見する。コーヒー博士に彼らのことを尋ねると、二人とも人工中絶を行った経験のある医師で、彼女が中絶の相談をしたのではないかと示唆する。
 リッターがブラウンから得たフィリスの写真を新聞に掲載して情報提供を求めると、サイモン・ガリックという左翼活動家が農家を改造した「ラヴ・ファーム」というヒッピーたちの溜まり場に彼女が行くところを目撃したという証言が寄せられる。ガリックの妻ゾーナは富豪の娘だったが、父への反発からガリックと結婚したのだった。夫妻はいずれも、フィリスのことを知らないと言い張るが、リッター警部補は、帰り際に、ブラウンの服に付いていたと思しきアクリル樹脂製のボタンが落ちているのを見つける。
 警部補は、コーヒー博士からの連絡で、フィリスがパストゥール病院に担ぎ込まれたことを知る。彼女は、サザーランドの劇場のステージに昏睡状態で倒れているところを発見されたという。嘔吐していたため、サザーランドは彼女が泥酔していると思ったが、吐瀉物に血が混じっているのに気づき、救急車を呼んだのだった。
 彼女の症状はタリウム中毒で、意識も既になく、髪はすべて抜け落ちていた。彼女は間もなく死亡するが、妊娠二か月だったと判明する・・・。

 コーヒー博士は、いつもであれば、淡々と検査結果を明らかにする学者肌の人物なのだが、この作品では珍しく、リッター警部補に頼んで、容疑者たちを自分の研究室に一堂に集め、謎解きを披露してみせるだけでなく、容疑者に罠をかけて追い詰める。プロット自体はさほど斬新なものではないが、普段は地味な印象の強い博士が、名探偵のごとく大見得を切ってみせる場面がユニークで面白い。

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

ローレンス・G・ブロックマン “Dr. Coffee and the Pardell Case”

 “Dr. Coffee and the Pardell Case”は、本国版EQMMの1972年6月号に掲載された、ダニエル・ウェブスター・コーヒー博士物の単行本未収録の中編。

 ノースバンク警察殺人課のマックス・リッター警部補の部屋に、助けを求める電話がかかる。かけてきたのは、ピート・パーデルという、警部補のかつての友人だった。二人はともにハイ・スクールに通った仲だったが、ピートは不幸な家庭に育ち、貧困から這い上がって成功した弁護士になっていた。
 ピートは、ハイ・スクール時代に、元バス運転手の家に間借りしていたが、その娘のエリカとねんごろになり、家賃も払っていなかった。卒業後にエリカとの結婚を期待されていたのに、ピートは行き先も告げずにノースバンクを去り、その後間もなく、エリカは敗血性流産で亡くなっていた。
 弁護士になったピートは、運転手付きのリンカーン・コンチネンタルに乗り、贅沢に身を包んだ妻を連れて故郷に錦を飾り、ノースバンクの高級住宅地であるインディアン・ヒルに邸を買い、時おり週末に戻ってきていた。
 ピートは過去に、賄賂事件でグラックという賭博師を有罪にしていた。リッター警部補は、グラックが5年の刑期を終えて出所したという情報を得て、ハイ・スクール時代以来はじめてピートを訪ね、昔のよしみからではなく、犯罪を未然に防ぐために、パーデルに身辺警護をつけることを申し出ていた。しかし、パーデルはリッターの申し出を断っていた。
 電話がかかってきたのは、その翌日で、ピートは、男に車であとをつけられ、なんとか邸まで戻り、部屋に鍵をかけたが、男がドアを破って入ってこようとしているという。そのうち、ピートの言葉は途切れ、受話器の向こうからは苦しげな呼吸音しか聞こえなくなる。
 リッター警部補は邸に急行するが、邸では、使用人のほとんどが非番でおらず、ただ一人いた執事は、地下の部屋で酔い潰れて寝ていた。ピートの部屋は内側から鍵がかかっていて、ドアを破って入ると、ピートは恐怖で目を見開き、手に受話器を握ったまま床に倒れて死んでいたが、出血の痕跡はなく、暴力をふるわれた様子もなかった。部屋は、ドアも窓もすべて鍵がかかり、煙突もふさがれていて、完全な密室状態だった。
 警部補は、パーデル夫人の応接間からコーヒー博士に電話をかけ、事情を話して検死解剖を依頼するが、話しているうちに、足元の敷物に血痕らしきものがあるのに気づく・・・。

 密室の謎、死因の謎に加えて、落ちぶれて邸の管理人をさせられている邸の元所有者、娘の恨みを晴らそうとする元運転手など、多彩な容疑者を揃え、ハウダニット、フーダニット、さらには、ホワイダニットと、謎解きの要素をふんだんに盛り込んで全体のプロットを練り上げているところがうまい。コーヒー博士は、プードルの検死解剖までやらされるが、この死んだプードルも、その謎自体興味深いだけでなく、重要な手がかりをなしている。
 ロバート・エイディの“Locked Room Murders and Other Impossible Crimes”でも取り上げられているが、密室の謎自体は、どちらかといえば副次的な要素で、比較的早い段階で種明かしされる。ところが、これに続けて、犯行を自供した男の所持していた銃が、摘出された弾丸の口径と一致しない事実が判明するなど、立て続けに謎を提示して展開を盛り上げていくところにも、ブロックマンらしい巧者なストーリーテリングが光っている。中編のボリュームで処理するには惜しいほどの好編である。


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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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