スチュアート・パーマー『ペンギンは知っていた』

 スチュアート・パーマーのヒルデガード・ウィザーズのシリーズは、長編だけでも14作(遺作の補筆完成版含む)あるが、残念なことに、邦訳は本作『ペンギンは知っていた』(1931:原題“The Penguin Pool Murder”)と『五枚目のエース』のみ。ユーモア・ミステリ的性格が強いものの、謎解きとしての骨格をしっかりと持っている作品が多く、日本人読者の好みに合いそうに思えるのだが、意外と紹介が遅れているようだ。
 本作は邦訳があるので詳しいストーリー紹介は省くが、小学校教師のミス・ウィザーズは生徒たちを引率して水族館見学に赴くが、ペンギンのプールに男が死んでいるのを見つけ・・・というお話。
 デビュー作のせいか、ユーモアも含めてやや控えめな印象を受けるが、本作にはシリーズを特徴づけるファクターがほぼ出揃っていると言えるだろう。冒頭のスリ捕縛をめぐるドタバタは、このシリーズらしいファルス的場面だし、コツコツ型の捜査を担うパイパー警部と、鋭い洞察で助言を与え、解決を導くミス・ウィザーズというコンビの特徴も既に打ち出されている。
 この二人は、常にフレンドリーな関係を保ちながら捜査で協力し合う名コンビだが、本作の結末で用意されている大団円は、その後の作品では何の説明もなくネグレクトされている(第二作“Murder on Wheels”によれば、警部は警報を聞きつけて土壇場になって彼女をタクシーに置いてきぼりにしてしまったらしいが)。おそらくはシリーズ化にあたって、デビュー作の設定をそのまま生かすほうがいいと作者は判断したのだろう。
 プロット自体は、フーダニットの意外性を狙うあまり、かえって作為を弄しすぎて見え見えになってしまい、推理小説を読みなれた読者には「ゲームの慣習」で見抜きやすいかもしれない。また、動機の設定が弱いのがパーマーの作品にしばしば見られる欠点で、それは本作にも当てはまる。とはいえ、デビュー作にしてはまずまずの出来と言えるだろう。クライマックスの法廷場面も見せ場づくりがうまく、テンションを高めながらも、最後は思わずクスリとなるようなユーモラスなシーンで締めくくっている。
 なお、邦訳もある短編集『被告人、ウィザーズ&マローン』は、クレイグ・ライスとの合作とされているが、病を患っていたライスを支援するために、実際はほとんどパーマーが単独で執筆したものらしい。
 私自身お気に入りのシリーズであり、このブログでも今後作品を取り上げていこうと思う。
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スチュアート・パーマー “Nipped in the Bud”

 “Nipped in the Bud”(1951)は、ヒルデガード・ウィザーズの登場する長編。本作は、蒐集家のネッド・ガイモンに捧げられている。

 芸能界デビューを夢見てニューヨークにやってきた娘、イーナ・ケルは、借りたばかりのマンションの部屋で、新天地での成功を想像しながら、ベッドで眠れぬ夜を過ごしていた。
 朝の六時を回り、隣の部屋から歌ったり踊ったり、おしゃべりをしている賑やかなパーティーの様子が聞こえてくるが、客たちが帰ったあと、男が争っているらしい音が聞こえるのに気づく。気になったイーナは、廊下に出て隣の部屋のドアを窺っていると、唇を腫らして息を切らした若い男が、ドアの外に置かれた牛乳瓶に躓きそうになりながら出てくるのを目撃する。
 男がエレベーターに乗って去ったあと、イーナはいったん部屋に戻るが、男がドアを半開きにしたまま出て行ったにもかかわらず、隣からは散らかった部屋を片付けている音も聞こえず、あまりに静かなことを不審に思い、思い切って外に出て隣の部屋に行く。呼んでも返事がないため、中の様子を窺うと、顔を殴られて血だらけになった男が床に横たわっているのを見つける・・・。

 本作は、『五枚目のエース』に続く、〝ヒルディ〟・ウィザーズの登場する12作目、完成されたものとしては最後から2番目の長編に当たる。
 殺された男は、テレビのショー番組で有名なトニー・フェイガンであり、喧嘩の相手は番組の中でトニーに侮辱された、番組スポンサーの〝ゴールト・フーズ〟の副社長、ウィンストン・〝ジュニア〟・ゴールトと判明する。捜査に当たるのは、おなじみのオスカー・パイパー警視。ゴールトが逮捕されるが、決め手となる目撃証人のイーナが姿をくらましてしまう。ヒルディは彼女を追って、愛犬のプードル〝タレイラン〟を連れてティファナに向かうが、現地でプードルが引き起こすドタバタに巻き込まれ・・・という展開になる。
 ヒルディのかつての教え子で、ゴールトの弁護士のサム・ボーディン、ティファナで出会い、彼女を手伝うことになる浮浪児のヴィトーなど、脇役にもユニークな登場人物を揃え、ユーモラスなシーンも満載だ。特に、ボーディン弁護士は明らかに、短編でコラボしたクレイグ・ライスのキャラクター、ジョン・J・マローンをモデルにした登場人物であり、実際、マローンの名前も作中で言及される。
 本作は、シリーズの中でもプロットの秀逸さで一、二を争う作品として定評があり、途中の追跡劇はやや単調で中だるみの感はあるものの、クライマックスでのどんでん返し、犯人の意外性もさることながら、しばしば動機の設定が弱いとされるパーマーとしては、動機のユニークさにも光るものがある。
 作中には、バイロンをはじめ多くの引用が出てくるが、日本人読者にはややなじみが薄いものの、そんな中にも重要な手がかりが隠されているのも面白い。ユーモア溢れる中に考え抜かれた仕掛けが盛り込まれた、パーマーの代表作の一つといえるだろう。

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スチュアート・パーマー “Murder on Wheels”

 “Murder on Wheels”(1932)は、『ペンギンは知っていた』に続く、ヒルデガード・ウィザーズの登場する二作目の長編。

 雪の降るラッシュアワーのマンハッタンの大通りで、交通整理に当たっていたドゥーディー巡査の目の前で青いクライスラーのオープンカーがいきなり左に逸れ、対向車のタクシーに衝突する。
 ところが、ドゥーディーがクライスラーに駆け寄っても、車内に運転手の姿はない。衝突されたタクシーの運転手に尋ねると、30ヤードほど離れた歩道を指さしたため、既に野次馬が群がる中をかき分けていくと、青年が仰向けに倒れていた。青年はこと切れていたが、その首にはロープが巻きつき、喉に食い込んでいた。
 ドゥーディーは自殺者ではないかと考えるが、すると、そばにいた山高帽をかぶった青年が死体を見て、「ローリー・ステイトじゃないか!」と叫ぶ。ドゥーディーは、死体の身元を知っているらしい青年の手を借りて死体を近くのビルの前まで運ぶ。オスカー・パイパー警視も現場にやってくるが、その青年はいつの間にか姿をくらましてしまう。警視は死体のポケットを探るが、なぜか財布が出てこない。そこへミス・ウィザーズも姿を現す。
 警視はクライスラーの運転手は事故後に逃げたものと思い、衝突されたタクシーの運転手に、相手の車の運転手はどこに行ったのかと尋ねるが、タクシーの運転手は、死体の青年がその運転手だったと言う。タクシーの運転手は、死んだ青年が運転席から中空へと飛び上がり、うしろ向きに車から飛び出して道路へと放り出されたと証言する・・・。

 なにやら不可能犯罪めいた冒頭の謎が興味を引くが、その謎自体は意外と呆気なく、比較的早い段階でほぼ解明されて、さほど感心するような仕掛けがあるわけでもない。むしろ荒唐無稽で、実行可能性に疑問がつきそうな代物だ。
 プロットはむしろ、一卵性双生児の兄弟と相続や結婚をめぐる人間関係を中心に展開するが、これも比較的単純で、推理小説を読み慣れた読者なら、多くの伏線から比較的早い段階で概ね見当をつけてしまいそうだ。
 ただ、デビュー作の前作に比べると、プロットの練り具合も一段と緻密さを増し、細部までよく考え抜かれているのが分かるし、パーマーは本作でようやく本領を発揮し始めたという印象を受ける。
 パイパー警視とミス・ウィザーズは、前作でハッピー・エンドを迎えたはずだったが、本作ではその予定が実現しなかったことが明かされる。二人がなぜ予定を変えたのかは、突然の警報に妨げられたという説明はあっても、動機についてはっきりした説明はない。ただ、どちらも〇〇主義者で、内心では妨げられてほっとしていたとの言及もあるので、真相はそのへんにあるのかもしれない。

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