フリーマン『キャッツ・アイ』解説4

四 登場人物等についての補足

 本作の語り手であるロバート・アンスティ弁護士のほか、ブロドリブ弁護士、犯罪捜査課のミラー警視、バジャー警部は、他の作品にも繰り返し登場している準レギュラー・メンバーである。『赤い拇指紋』では、アンスティはルーベン・ホーンビイの弁護士を務め、ミラー警視は、ホーンビイ事件の真犯人を刑事裁判所から尾行しながら、行方を見失っている(「前科者」より)。バジャー警部は、“When Rogues Fall Out”で、その逃げおおせた真犯人の手にかかって悲劇的な最期を迎えることになる。
 ウィニフレッド・ブレイクは、本作の前に書かれた“Helen Vardon’s Confession”(一九二二)にチョイ役ながら登場しており、本作の中でも言及されているように、ポルトンの姉マーガレットがウェルクローズ・スクエアに構える下宿に、同作のヒロイン、ヘレン・ヴァードンや手芸品を生業とするほかの女性たちと同居していて、やはり神秘主義に関心の強い女性として描かれている。本名はウィニフレッドだが、リリスという愛称で呼ばれていて、学校に通っている弟がいるという言及もある。彼女はのちに、短編「砂丘の秘密」でも、夫となったアンスティ弁護士とともに顔を出していて、やはり絵を描いていることが言及されているし、“The Mystery of Angelina Frood”(一九二四)では、ソーンダイク博士が、謎解きにあたってアンスティ夫人の絵の才能に支援を求めたことを語っている。
 ジャーヴィスはアメリカに行っていて不在だが、ポルトンは、得意の発明の才を活かして反射鏡眼鏡を考案しているし、レギュラー・メンバーを含めて、登場人物たちの個性が光る点でも楽しめる好編といえるだろう。
 エイルズベリーの土地柄についても、フリーマンが実際に現地を訪れた経験を踏まえていて、第十四章に出てくる時計台はマーケット・スクエアに今日も存在しているし、「キングス・ヘッド・イン」という十五世紀に遡るパブもあり、本作に登場する「キングス・ヘッド」のモデルになったものである。
 なお、ドナルドスンの“In Search of Dr. Thorndyke”によれば、フリーマンが序文で言及している実際の事件とは、一九二二年十一月に、ロンドン警視庁警視総監だった陸軍准将ウィリアム・ホーウッド卿にヒ素入りの胡桃菓子が詰まった箱が届けられた事件である。ウィリアム卿は、親戚から届いた誕生日プレゼントと思って食べてしまい、病院に運び込まれ、一時は絶望視されながらも一命をとりとめた。犯人は精神疾患の前歴がある園芸家で、裁判の結果、責任能力がないと判断され、精神病院に収容された。作者の困惑ぶりが伝わってくる序文も、「愚者の毒」たるヒ素を用いた殺人事件が近年の我が国でも起きていることを想起すると、古い話と片付けられない気もしてくる。
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