ベントリー『トレント最後の事件』初版の問題

 E・C・ベントリーの『トレント最後の事件』も、実は初版をめぐって議論のある本だ。ジョン・クーパー&B・A・パイク編“Detective Fiction: The Collector’s Guide”によれば、英版と米版のどちらが真の初版なのかはっきりしないらしい。同書によると、A・E・マーチ女史が“The Development of the Detective Novel”(1958)の中で、ニューヨークのセンチュリー社が1912年に“The Woman in Black”というタイトルで出したものが真の初版で、英ネルソン社の初版は1913年3月に出たものだと主張しているようだ。
 ところが、バーザン&テイラーの“A Catalogue of Crime”は、反対に、ネルソン社版が1912年、センチュリー社版が1913年としている。その一方で、アーロン・マーク・スタインは、1977年のミステリ・ライブラリ版の序文で、英米両版とも1913年3月に出たと述べているとのこと。
 肝心の英初版に出版年が印刷されていないことも混乱のもとになっているようだが、大英図書館蔵の英初版には1913年3月29日というスタンプがあり、イングリッシュ・カタログ・オブ・ブックスでは1913年2月13日という出版の日付を載せているらしい。
 もちろん、(誤植や異同の問題などを別にすれば)どちらが真の初版だろうと、何日に出版されたものだろうと構わないではないか、という意見もあるだろう。いわゆる初版本のコレクターでない限り、中身が同じであれば、そんな問題などどうでもいいことだからだ。
 誤解のないように申し上げれば、私自身もそんなコレクターではないので、基本的には同じ認識であり、中身が同じであれば、なにも高値の付きちがちな初版本を手に入れようとは思わない。ただ、フリーマンのように、初版にのみイラストや写真が入っている例もあり、初版に特別な情報が含まれているような場合には関心の向くことがある。
 この『トレント最後の事件』も、英初版には、ヒックリングという画家によるマンダースン夫人のカラーの肖像画が口絵として挿入されている。トレントが夫人に初めて会った時の様子を描写したもの。創元文庫版のカバーにも使われているが、なかなか魅力的なポートレートではないかと思う。

Mrs. Manderson
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ジャンル : 小説・文学

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