H・C・ベイリー “The Bishop’s Crime”

 “The Bishop’s Crime”(1940)は、レジー・フォーチュン氏が登場する長編。

 霧深いある日の早朝、ウォリックシャーからロンドンに向かう牛乳運搬車が、道路にうつぶせになって倒れていた男を轢いてしまったのに気づく。フォーチュン氏は、犯罪捜査部のローマス部長に請われて男の検死を行うが、死因は頭を殴打されたことによる頭蓋骨骨折であり、運搬車に轢かれる数時間前に既にこと切れていたことが分かる。何者かが男を殺したあと、道路に遺棄したものと考えられた。
 男は顔を潰されて人相が分からないようにされていたが、フォーチュン氏が元の顔を想定してスケッチを描くと、ローマス部長とベル警視は、その男が、暖炉や天井などに施された彫刻などの室内装飾を盗むことを専門にした泥棒、ダーティ・ディックことジョゼフ・パークスであることに気づく。
 フォーチュンは、ファゴットと呼ばれる豚肉の腸詰めが胃の内容物として残っていて、食事から死亡時までさほど時間が経っていないこと、爪に古いモルタルや赤色砂岩と石灰岩が残っていたことから、男がそうしたメニューを提供される土地で食事をし、なおかつ、そうした石材を用いた大聖堂で盗っ人仕事をしていたと推定して、ロンドンの西8マイルほど離れたベイドンの大聖堂を突き止める。
 ベイドンの大聖堂はノルマン征服以前に遡る歴史を持ち、ヘンリー8世による財産没収などの試練を経ながら続いてきた由緒ある大聖堂だった。現在の主教は、そこに赴任してまだ数年で、妻を亡くし、ポギーとボビーという女の子と男の子がいた。
 その後、ベイドンの北端にあるエッブナーという丘の家で火事があり、男の死体が発見される。死体は、ダーティ・ディックの仲間とみられていたサム・ダヴと分かる。家主が留守の家だったため、ダヴが盗みに入った先で起きた爆発事故と思われたが、家には盗みに入るようなめぼしいものはなく、さらに、ダヴは頭を殴られ、指紋から身元が判明しないように指を焼かれていたことが分かる。
 フォーチュンは、殺された二人が、大聖堂に隠された何かを狙っていたが、大聖堂の現場で何者かに殺され、別の場所に遺棄されたものと考える。フォーチュンは大聖堂の秘密を探るため、聖母礼拝堂の写真撮影を求めるが、首席司祭は、規則を理由にこの要請を厳しく拒否する。
 ところが、ある晩、その首席司祭が聖壇の近くで頭を殴られ、首を刺されて倒れているのが発見される。首席司祭の服に着いていた汚れから、聖母大聖堂が現場と分かるが、見張っていた警察官の証言から、その時間に主教が現場近くにいたことが分かる・・・。

 この“The Bishop’s Crime”をベスト表に挙げている評者は多い。“A Reader’s Guide to the Classic British Mystery”の著者スーザン・オレクシウは、ベスト100の一つに本作を選び、“1001 Midnights”のマーシャ・マラー&ビル・プロンジーニも、ベイリーの長編の傑作として“Shadow on the Wall”、“The Life Sentece”と並んで本作を挙げているし、W・B・スティーヴンスン編“A Reader's Guide: Detective Fiction”でも、ベイリーの代表作として本作が挙げられている。“Twentieth Century Crime and Mystery Writers”でベイリーの項目を執筆しているジェーン・ゴットシャルクが、「多くの読者が“The Bishop’s Crime”をフォーチュン物のベスト長編に選んでいる」と述べ、ジェームズ・サンドーの名作表にも挙げられているオムニバス“Meet Mr. Fortune”にも長編として唯一本作が収録されていることから考えても、これがベイリーの長編代表作として定評のある作品であることは明らかであろう。
 やや強引なところはあるが、わずかな手がかりから一連の犯罪の経緯を割り出し、一見縁遠そうな場所や人物たちを事件と関わりのある存在として追及していくフォーチュンの推理は、いかにも黄金時代の名探偵らしい鋭さを感じさせる。ストーリー展開も、礼拝堂内の墓を暴くシーンやボートの沈没シーンなど、見せ場がそれなりにあって面白い。
 14世紀に遡るダンテの写本、そこに秘められた暗号とヘンリーによる財産没収を免れた中世の宝探しという、冒険小説的要素も、その謎自体はフェアプレイとは言い難いが、ストーリーに歴史的なロマンと興趣を添えることに成功している。ただ、フーダニットとしては、それほど斬新な見どころはない。
 短編「黄色いなめくじ」や長編“Black Land, White Land”でも分かるように、子どもを描かせると卓越した力量を発揮するベイリーだが、本作でも、主教の二人の子どもがプロットの上で重要な役割を果たしている。なかなか愛嬌のある子どもたちとして描かれてはいるのだが、“A Catalogue of Crime”のバーザンとテイラーも厳しめの評価をしているように、他の優れた作品と比べると、さほど顕著な魅力が感じられないのが残念なところか。
 フォーチュン氏の気取った態度や時代遅れの言い回しはさすがに鼻につくが、ベイリーの長編は退屈だという批判が必ずしも当たらないことを実感させる佳作と言えるだろう。
スポンサーサイト

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

S・フチガミ

Author:S・フチガミ
お問い合わせ等は
fuhchin6491
(アットマーク)
hotmail.co.jp
へどうぞ

カテゴリ
フリーエリア
天気予報
リンク
検索フォーム
アクセスカウンター
RSSリンクの表示