ナイオ・マーシュ “Death in a White Tie”

  “Death in a White Tie”(1938)は、ロデリック・アレンが登場する7作目の長編。

 上流階級の人々を狙った恐喝事件が相次いでいた。レディー・イヴリン・カラドスもその被害者の一人だった。
 クラシック音楽のチャリティ・ショーがマースドン・ハウスで行われる予定だった。それはレディー・カラドスの娘、ブリジェットの社交界デビューのパーティーでもあった。恐喝犯は、そのパーティーの際に、コンサート・ルームの青いソファに500ポンド入れたバッグを置いておくよう要求してきた。
 ブリジェットは、レディー・カラドスが、最初の夫、パディ・オブライエンとの間に儲けた娘だったが、その出生には秘密があった。パディには妻があったが、彼女は結婚直後に発狂し、パディは彼女をオーストラリアの精神病院に残したままイギリスに帰国。その後知り合ったイヴリンと結婚し、ブリジェットを儲けたが、パディの妻はその時まだ存命中だった。パディは妻が死んだという連絡を受けた直後に事故死。その後、イヴリンは、現在の夫、ハーバート・カラドス卿と結婚したのだが、彼女は、ブリジェットにも現在の夫にも、その秘密を隠したままだった。恐喝犯は、その秘密をどこからか入手し、レディー・カラドスに金を要求してきたのだ。
 ロデリック・アレン首席警部の指示に従い、レディー・カラドスは、要求どおり金を手渡す段取りをする。アレンは、友人のロバート・ゴスペル卿に、その恐喝犯を捕えるために協力を求める。ゴスペル卿は、どんなパーティーにも気軽に顔を出すことで知られていて、怪しまれずにパーティー会場で犯人を突き止められると考えたからだ。
 弦楽四重奏団の演奏のさなか、ソファに置かれたバッグを男が持ち去るのをゴスペル卿はその目で捉える。恐喝犯を突き止めたらしいゴスペル卿は、マースドン・ハウスからスコットランド・ヤードにいるアレンに電話をかけるが、その途中で何者かが電話室に入ってきたらしく、卿はそれが誰なのかを言わないまま、これからヤードに行くと告げて電話を切る。
 その数時間後、ヤードに着いたタクシーの運転手からの連絡で、アレンはタクシーの中に息絶えたゴスペル卿を発見する。ゴスペル卿は、マースドン・ハウスからヤードに向かうタクシーの中で、隣席の同乗者にシガレット・ケースで頭を殴打され、意識を失ったところを口と鼻をふさがれて窒息死させられたらしかった。謎の同乗者は途中で降車し、運転手もその容貌をはっきり覚えていなかった。
 アレンは、ゴスペル卿を捜査に巻き込んだ自責の念に駆られつつも、犯人逮捕の決意を固める・・・。

 本作のペーパーバック等のカバーには、「ナイオ・マーシュの“Death in a White Tie”は、私がこれまでに読んだ最高の推理小説である」というダシール・ハメットの言葉がよく刷り込まれている。その出典もハメットが称賛した理由も寡聞にして知らないが、マーシュの初期作品の中ではかなり水準の高い作品なのは間違いない。
 ストーリー展開は、例によって中間部で関係者への尋問シーンが延々と続くため、だれて仕方ないし、マーシュの長編の中でも比較的分量の多い長編だけになおのことうんざりさせられるのだが、それを補って余りあるほど、大団円では見事などんでん返しの連続を演出している。
 借金の件で叔父のロバート卿と言い争っていたドナルド、自分の妻を恐喝している犯人がロバート卿だと疑っていたハルカット・ハケット将軍など、有力容疑者にも事欠かないし、マーシュらしい綿密に組み立てられたプロットも堅実で好ましい。
 なお、アレンはこの事件で再びアガサ・トロイと出会い、今度は最後にめでたく結ばれる。しかし、トロイ自身は出番も少ないし、事件の中で特別な役割を演じているわけでもない。トロイがアレンを袖にした前作“Artists in Crime”の経緯を踏まえて、本作で二人を結ばせる演出をしたのだろうが、いささか余計なサブプロットの感がなくもない。むしろ、トロイが彼女らしい個性を発揮し、ストーリーに魅力的な彩を添えるようになるのは中後期の作品に入ってからだろう。
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