J・J・コニントン『九つの解決』刊行予定

 コニントンの『九つの解決』(1928)(原題:The Case with Nine Solutions)が、来年夏に論創社の論創海外ミステリ叢書から刊行の予定です。警察本部長クリントン・ドリフィールド卿が登場する長編です。
 コニントンは、専門的で難解な化学知識や地味なストーリーテリングもあって、広範な読者層に受容されるには至らず、ほとんど忘却同然の扱いを受けていた時期もありましたが、最近では、カーティス・エヴァンズの“Masters of the “Humdrum” Mystery”のように、コニントンを主要テーマの一つにした研究書なども出ており、黄金期の謎解き作品に対するリバイバルの動きと並行して、復権の兆しが見えるようです。
 ストーリーの退屈さをよく指摘されるコニントンですが、この『九つの解決』については、濃霧の中で起きる臨場感に満ちた殺人を発端に、計四件の死が次々と発生し、捜査陣すら巻き込んだ驚くべきクライマックスに至るまで、弛緩することのないストーリー展開を楽しむことができます。特に、タイトルにあるように、クリントン卿とフランボロー警部が、九つの組み合わせに基づく解決案を叩き台に議論を展開し、公算の低い選択肢を消去しながら真相を絞り込んでいく第六章は、まさに黄金時代の謎解きの醍醐味を味わえる本作の最大の見せ場と言えるでしょう。
 ところで、この翻訳は、実はもともとROM叢書から刊行する予定だったのですが、論創社がちょうど同作の刊行の企画を進めているとの情報に接した須川毅氏の御配慮により、論創海外ミステリ叢書に加えていただくことになったものです。仲介の労を取っていただくとともに、快く論創社に企画を譲っていただいた須川氏にこの場を借りて厚く御礼申し上げる次第です。
 いささか申し上げにくいことながら、論創海外ミステリ叢書の刊行物については、当ブログの過去の記事において、かなり厳しめの翻訳評を書かせていただいたことがあります。今にして振り返れば、翻訳批評がやや下火になるとともに、翻訳ミステリの中にも首を傾げるような水準の翻訳が以前にもまして出回る現実も目につくようになったことが、つい勇み足の辛口記事につながってしまったように思います。普通であれば、自社の刊行物の翻訳を批判した翻訳者など使わないだろうと思うところですが、論創社からは、むしろ、私の拙い批判記事を真摯に受け止めていただき、質の改善に努めておられる旨とともに、私の翻訳を叢書に快く加えていただける旨のご連絡をいただきました。私としても、こうした論創社の努力を多とするとともに、その誠意にしかとお応えすべきと考え、拙訳を叢書の末席に加えていただくこととした次第です。
 刊行までにはまだしばらく時間がありますが、多くの読者の皆様に楽しんでいただけることを願っております。
スポンサーサイト

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

S・フチガミ

Author:S・フチガミ
お問い合わせ等は
fuhchin6491
(アットマーク)
hotmail.co.jp
へどうぞ

カテゴリ
フリーエリア
天気予報
リンク
検索フォーム
アクセスカウンター
RSSリンクの表示