ソーンダイク博士の肖像

 『オシリスの眼』刊行を前に、これまで描かれてきたソーンダイク博士の肖像を振り返ってみたいと思う。
 フリーマン自身が称賛していたのは、初期のピアスン誌で挿絵を担当したH・M・ブロックが描いた肖像。これは「青いスパンコール」(ピアスン誌1908年12月号)の挿絵で、雑誌版にのみ掲載されたもの。

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 ちなみに当ブログのプロフィール欄にもブロックによる博士の肖像を載せているが、これはファンの一人として敬意を込めて載せているだけで、もちろん私自身は博士とは似ても似つかない(笑)。これも同号に掲載されたもので、一番代表的な肖像だろう。チャトー&ウィンダス社の“John Thorndyke's Cases”(1909)には再録されなかったが、ノーマン・ドナルドスンが“In Search of Dr. Thorndyke”(1971)の装丁で用いて以来ポピュラーになり、邦訳の表紙等でも使われるようになった。

 次は、『赤い拇指紋』の英初版(1907年。コリングウッド社)の口絵に描かれたソーンダイク博士(左)。右側はジャーヴィス。画家はT・E・フランシス。邦訳154頁で、窓が砕け散る音がしたシーンを描いたもの。これが史上最初に描かれたソーンダイク博士の肖像ということになる。

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 次は、‘The Magic Casket’(ピアスン誌1926年10月号)でレジナルド・クリーヴァーが描いたソーンダイク博士(右から二人目)。クリーヴァーはピアスン誌で最後にシリーズの挿絵を担当した画家だが、彼による博士の肖像も、ブロックの影響があるのか、それほど違和感はない。

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 以下、視点を変えて、変わり種の珍しい肖像を紹介していこう。
 アメリカのマクルーア誌で挿絵を担当したヘンリー・ローリーによるソーンダイク博士は、髪は淡色で、唇を引き締め、眼光鋭くピンスネをかけている。温和さのかけらも感じられないソーンダイクだ(1910年5月号)。

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 次は、「ニュージャージー・スフィンクス」(ピアスン誌1922年4月号)で挿絵を担当したシドニー・シーモア・ルーカスによる博士の肖像。頬骨の際立った風貌はソーンダイクというよりホームズだし、背後にいるジャーヴィスも口ひげを蓄えていて、どう見てもワトスンだ。おそらくルーカスはさして下調べをせず、ホームズとワトスンのイメージで二人を描いたのだろう。ルーカスが挿絵を担当したのはこの一度きり。

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 次は、“Dr. Thorndyke’s Case-Book”(1923)の英初版ダスト・ジャケットに描かれた博士。体格は妙に太めで、ピストルを勇ましく振り上げ、まるでハードボイルド系のタフガイ探偵だ。

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 次は、もともと“Pontifex, Son and Thorndyke”(1931)の英初版ダスト・ジャケットに描かれていた肖像をのちのオムニバス短編集に転用したもの。ところが、これはとんでもない勘違いに基づいている。もともとのジャケットに描かれていたこの人物は、実はソーンダイクではなく、ブロドリブ弁護士なのだ(“Artists in Crime”のクーパー&パイクは、そのように正しく解説しているのだが)。これをソーンダイクと思い込んだのはこの短編集の装丁担当者だけでなく、バタード・シリコン・ディスパッチ・ボックスのホームページに掲載されている、ヘンリー・ローリツェンによる博士の肖像も明らかにその影響を受けている。

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 ホームズの場合は、風貌も個性的だし、シドニー・パジェットの挿絵があまりに有名で、そのイメージから大きく外れた肖像が描かれることは滅多になかったのだろうが、ソーンダイクの場合は、もともとホームズのように特徴的な風貌の描写もないし、ピアスン誌だけでも何人もの挿絵画家が入れ替わり、特定のイメージが定着しなかったことが、こうした多様な肖像を生み出した原因でもあるのだろう。
 個人的には、原作者フリーマンと同じく、H・M・ブロックの描く肖像が(ジャーヴィスも含めて)一番しっくりくるのだが、人によっては、(勘違いに基づく)老熟したブロドリブ弁護士のイメージのほうが博士に似つかわしいと思うのかもしれない。
 二宮佳景氏による『オシリスの眼』旧訳も、ソーンダイクは「わし」という主語を使っていて、まるで老人のようだが、実際はこの時点のソーンダイクは34歳なのだ。二宮氏も、理知的で落ち着きのある印象からソーンダイクを老人と思い込んだに違いない。なにしろ、作中でも、歳のわりに老熟したソーンダイクのことを揶揄して、ジャーヴィスは「メトシェラ」(旧約聖書「創世記」第五章に出てくる、九百六十九歳まで生きたとされる長寿の象徴)と呼んでいるくらいだから。
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