ジョン・ロード“The Vanishing Diary”

 “The Vanishing Diary”(1961)は、ロードの遺作。プリーストリー博士最後の事件でもある。

 飛行機会社のテスト・パイロット、フレディー・ハプトンは、1月の午後、テスト飛行中の飛行機がトラブルを起こし、パラシュートで脱出、飛行機はそのまま海に墜落する。雪の積もる丘に降り立ったフレディーは、羊飼い用の小屋を見つけ、中にストーブもあったおかけで、そこで一夜を過ごす。
 翌朝、丘を降りて、イリングセットという村にたどり着き、ブレイトンという警官から、その小屋がクラレンス・グレイストークという大地主の所有物だと教えてもらう。フレディーはグレイストーク氏の邸を訪れ、経緯を説明し、運転手に駅のある町まで送ってもらうことにする。
 グレイストーク氏は、前年のクリスマスのハウスパーティーの際に、食堂の窓が壊され、マントルピースに載っていた、ナポレオン三世の皇后、ウジェニーの銀製の胸像が盗まれる事件が起きたことを説明する。氏は別れ際に、三月初旬に再び邸を訪れるよう勧め、フレディーも快く招待を受ける。
 2月に招待状を受け取ったフレディーは、再びイリングセットの邸を訪れる。フレディーはそこで、クラレンスの息子のジョン、姉のメアリ・キンブル夫人、その娘のジョイス、氏の妹のスーザンに紹介される。邸には、氏の遠縁にあたるデヴィッド・グレイストーク、その妻のエリナー、娘のパトリシア、ドリス、息子のジョージも来ていた。
 クラレンスとデヴィッドの曾祖母、ルイーズは、二つの鍵で開けることのできる箱に自分の日記を入れ、二つの鍵をそれぞれ自分の二人の息子に渡し、子々孫々に伝えて、60年後に箱を開けるよう遺言していた。鍵は現在、クラレンスとデヴィッドかそれぞれ所有していた。フレディーが招待されたのも、箱を開ける記念すべき場に立ち会うためだった。22歳のパトリシアは歴史小説作家として成功を収め、新作に取りかかっていて、ジョンも一、二年前に詩集を出版していた。パトリシアは新作の題材としてその日記を使いたいと思っていたし、ジョンはその日記を自分が校訂して出版することを計画していて、二人とも祖先の記した日記に強い関心を持っていた。
 ところが、箱は、保管されていた戸棚から姿を消していた。緑色の金属の箱という特徴を聞いたフレディーは、自分が一夜を過ごした羊飼いの小屋の床に、そっくりの箱があったことを思い出し、そのことをクラレンスに告げる。彼らは小屋に急行するが、既に箱はそこからも姿を消していた。
 フレディーは、エリナーからウォーターブリッジの邸で休日を過ごすよう招待されるが、パトリシアが執筆に没頭して部屋に引きこもりがちであり、家族とも接することが少ないと知る。フレディーの滞在中に、パトリシアが部屋に鍵をかけたまま、母親のエリナーが呼びかけても返事が返ってこないと訴えてくる。フレディーが部屋のドアを破って入ると、パトリシアはテーブルの上のタイプライターに顔をうつぶせにして死んでいた・・・。

 72作の長編に登場するプリーストリー博士は、本作をもって読者に別れを告げる。その三年後の1964年、作者のジョン・ロードも世を去る。
 遺作にしては、プロットはそれなりにツイストを利かせているし、複雑さも兼ね備えていて、決して箸にも棒にもかからぬ駄作ではない。さりとて、全盛期に見られたほどのオリジナリティがあるわけでもなく、凡作気味と言わざるを得ないだろう。
 ただ、テスト・パイロットのフレディーの存在がユニークで、グレイストーク家のエピソードに彼が狂言回しのように関わることでストーリー展開に一定の起伏を持たせている。そのおかげで、後期の作品にしばしば見られる、どうにもならない退屈さを回避するのにある程度成功しているとも言えるだろう(もっとも、“A Catalogue of Crime”のバーザンとテイラーは「きわめて退屈」と酷評しているが)。
 「私の助言がお役に立ったのなら嬉しいよ」云々というのが、プリーストリー博士の最後の言葉となってしまったのだが、その言葉に象徴されるように、本作でも、プリーストリー博士の役割は、土曜の例会でジミー・ワグホーン警視に助言を与える立場にほぼ限定されていて、ある程度までは博士が謎解きを導くものの、最終的に謎解きをして犯人を突き止めるのはワグホーン警視だ。後期の作品の多くがそうであるように、快刀乱麻を断つような、名探偵の大見得切った謎解きの場面を期待する向きには肩透かしだろう。
 ちなみに、5月に刊行予定の『代診医の死』(論創社)は、ロード後期の作品の中でも、プリーストリー博士による鮮やかな謎解きが光る傑作の一つだ。多くの読者の皆さんにお楽しみいただければと願っている。



               Vanishing Diary

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