マイルズ・バートン “The Cat Jumps”

 マイルズ・バートン(ジョン・ロード)の“The Cat Jumps”(1946)は、シリーズ・キャラクターのデズモンド・メリオンが登場する作品。

 「ヴィンテージ荘」に住むグウェンドリン・コティントン夫人という65歳の老婦人が、ナイフで刺殺されているのが家の中で発見される。夫人と同居していたのは、長年仕えてきた料理人のマーサと、ほかには飼い猫のベリサリアスだけだった。
 現場のダイニング・ルームは密室状態になっていて、唯一、ベリサリアスが外から出入りするための小窓だけが開いていたが、とうてい大人が出入りできる大きさではなかった。殺人事件の前に、近くの「ゲーブルズ農園」の馬がナイフで刺されるという事件が起きていたが、使われたナイフは、夫人の刺殺に使われたのと同じタイプで、柄の部分にフランス語で死を意味する「MORT」という文字が刻まれた特殊加工のナイフだった。
 夫人には子どもがなく、亡夫から相続した莫大な財産があったため、遺言で相続の対象となる親族が容疑者として浮かび上がる。なかでも疑われたのは甥のスティーヴン・スティバードで、彼は科学者のラングリッシュとともに「ソルヴァイン」というリューマチに効く薬を開発して販売していたが、事件の直前に夫人を訪れ、資本金を得るために事業への参画を申し入れて断られていた・・・。

 デズモンド・メリオンは近隣の地域に住んでいて、コティントン夫人とも知り合いという設定であり、おなじみのアーノルド警部とともに捜査に携わることになる。
 本書はロバート・エイディの“Locked Room Murders and Other Impossible Crimes”にも取り上げられている密室物。しかし、密室のトリックそのものは単純であり、さほど斬新でも、驚くようなものでもない。エイディの解説を読んでも、それだけではなんのことはないトリックのように見える。
 むしろ、事件の真の謎は、いったん戸締りをして消灯し、床に就いたはずのコティントン夫人が、なぜ再び起き上って現場のダイニング・ルームに降りてきたのか、という点にある。タイトルにも示されているように、猫のベリサリアスの存在が重要な役割を果たしているのだが、動物を巧みに利用した手法には面白いと感じる面もあるものの、ロードらしく、やや専門的な科学知識を活用している点が一般読者には容易に得心し難いところかもしれない。
 バリー・パイクは、“CADS”21号で、バートンの作品として“Murder M.D.”、“Not A Leg To Stand On”と並んでこの作品を推薦しており、やはりベリサリアスの役割を強調している。そう言われると、どんな猫かと興味を惹かれるが、メリオンになついてしばしば膝の上に乗ってくる愛嬌のよさはあっても、さほど個性的に描かれているわけでもないため、例によって人物描写の弱さや退屈な中盤部分と相まって、せっかくユニークなトリックの着想を得ながら、いま一つ謎の盛り上げ方や雰囲気作りが弱くなっているところが残念だ。
 参考までに触れておくなら、バリー・パイクはほかに、ロードの作品として“Dr. Goodwood’s Locum”と“Death Invades the Meeting”を推していて、ジョン・クーパーとの共著“Detective Fiction: The Collector’s Guide”では、前者をパースナル・チョイスに挙げている。(後者はいかにも使い古されたトリックの作品で、個人的にはちっとも感心しなかったのだけれど・・・)
 なお、タイトルの“The Cat Jumps”は、‘see which way the cat jumps’(日和見をする)という慣用句に由来する。猫がどう飛び跳ねるかにポイントがあることを暗示しているようで、なかなか絶妙なタイトルの付け方と言えるかもしれない。
スポンサーサイト

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

S・フチガミ

Author:S・フチガミ
お問い合わせ等は
fuhchin6491
(アットマーク)
hotmail.co.jp
へどうぞ

カテゴリ
フリーエリア
天気予報
リンク
検索フォーム
アクセスカウンター
RSSリンクの表示