オースティン・フリーマン 「ポンティング氏のアリバイ」

 ‘Mr. Ponting’s Alibi’は、ピアスン誌1927年2月号に掲載された、ソーンダイク博士物の最後の短編である(邦訳は『ソーンダイク博士の事件簿2』創元社所収)。これ以降、ソーンダイクは活躍の場を完全に長編に移し、ピアスン誌からも姿を消す。本作はのちに短編集“The Magic Casket”(1927)に収録された。
 挿絵を描いているのはレジナルド・クリーヴァー。さらに、オリジナルの雑誌掲載版には、ソーンダイクがとった足跡の石膏型の写真が掲載されている(単行本には収録されていない)。


ポンティング氏のアリバイ1

ポンティング氏のアリバイ2


 本作品で用いられたトリックについては、上記『ソーンダイク博士の事件簿2』の解説で、戸川安宣氏が、クリスティの『アクロイド殺害事件』(1926)、ヴァン・ダインの『カナリヤ殺人事件』(1927)との類似性を指摘している。戸川氏は「フリーマンの本編はそれより前に書かれたと思われる」としているが、実際はクリスティのほうが早い。さらに言えば、クリスティ以前に、コナン・ドイルの「マザリンの宝石」(初出はストランド誌1921年10月号)という先例がある。
 (その関連で、やや脱線になるが、エラリー・クイーンの某有名作品についても、マージェリー・アリンガムの作品以前に、ドイルの「サセックスの吸血鬼」という先例がある。名前の酷似も、さて、ただの偶然だろうか。あくまでトリックという視点から捉えた見方ではあるが、そう考えると、改めて「推理小説の原点はホームズ」という感を深くする。)
 ところで、本作の雑誌版に足跡の石膏型の写真が掲載されていることを考えると、長編『ポッターマック氏の失策』にも、本来はフリーマンが実際に実験してみた足跡の写真があったのではないかという疑いを強くする。フリーマンが敢えて掲載を見送ったか、(むしろこちらのほうがありそうなことだが)版元のホダー&スタウトン社がコストや手間の制約から掲載を拒んだかのいずれかではないだろうか。
 なお、本作が掲載されたピアスン誌は、クリスティの「崖っぷち」(原題は‘The Edge’。『マン島の黄金』早川文庫所収)の初出誌でもある。

Pearson's Magazine表紙

 掲載された‘The Edge’の標題の下には、‘A story written just before this author's recent illness and mysterious disappearance.’というコメントが付されている。
スポンサーサイト

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

S・フチガミ

Author:S・フチガミ
お問い合わせ等は
fuhchin6491
(アットマーク)
hotmail.co.jp
へどうぞ

カテゴリ
フリーエリア
天気予報
リンク
検索フォーム
アクセスカウンター
RSSリンクの表示