クリフォード・ウィッティング “Catt Out of the Bag”

 “Catt Out of the Bag”(1939)は、シリーズ・キャラクターのチャールトン警部が登場する作品。“Detective Fiction: The Collector’s Guide”において“Measure for Murder”と並ぶウィッティングの代表作の一つとされ、同書の編者の一人、ジョン・クーパーもパースナル・チョイスに選んでいる。
 タイトルは‘let the cat out of the bag’(秘密を漏らす)という慣用句をもじったもの。

 ジョン・ラザフォードは妻モリーとともに、モリーの友人のデ・フレイン夫妻の招待を受けて、クリスマス期間をポールズフィールドの夫妻の家で過ごしていた。ジョンは内心では早く滞在を切り上げたいと思っていたが、デ・フレイン夫人のおしつけがましい要求に屈して、チャリティ活動のために各戸を回って募金を集めるクリスマス・キャロルのメンバーに加えられ、練習に参加するはめになる。
 ところが、キャロル活動の途中で、メンバーの一人で募金箱を持っていたトマス・ヴァヴァソーが行方不明となってしまう。ヴァヴァソーが募金箱を持ち逃げしたという疑いも生じたが、それなりに実入りのある地方巡回セールスマンだったヴァヴァソーが微々たる募金額のためにそんなことをするとは信じがたかった。
 その後、キャロルで巡回した家の一つの井戸から、鉛配管で撲殺されたヴァヴァソーの死体が発見される。ジョンは、モリーの叔父、チャールトン警部とともにヴァヴァソーの過去を洗い始めるが、地方巡回セールスマンとは真っ赤な偽りで、ヴァヴァソーは実は本名をトマス・キャットといい、幾つもの変名を使い、あちこちに妻を囲って彼女たちから金をせしめていた重婚者だったことが判明する・・・。

 この作品の基礎となるプロット・アイデアは、着想としてはなかなか面白く、ヴァヴァソーが殺害された動機と犯人の意外性がその要をなしている。本作がウィッティングの代表作とされるのも、そのアイデアの独創性にあると思われる。作者の意図が大団円で明らかにされると、うまく考えたものだとそれなりに感心するのだが、それと同時に、その着想が作品全体のプロットとして十分に消化しきれていないことにも気づき、いかにもこの作者らしいアイデア倒れに終わっていることを痛感させられる。退屈な尋問シーンが次々と続いてだれてしまう中間部分もこの作者の悪い癖だ。
 騙された妻たちや家族の証言からヴァヴァソーの過去が次第に明らかになり、彼女たちの中には自殺を図ったり、ひそかに自分で調査を始める者も出てきたりして、そうしたエピソードを交えながら、真相を巧みにカムフラージュしていく手法はそれなりに工夫を感じるのだが、カムフラージュの度が過ぎて真の動機に関わる人間関係が十分に描かれないままに進行してしまうため、せっかく大団円で真相が明らかにされても、背景描写が不十分なために得心できないのである。その点では、“Measure for Murder”と同様の欠点を有するといえるだろう。
 いわば、作家としての力量が足りないばかりに消化不良に終わっているのだが、それだけに実に惜しいと思わせるほどアイデア自体は悪くなく、ちょっともったいないと感じさせるところが、ウィッティングの作品の中でも評価が高い理由かもしれない。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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