文豪とキング

 ボーヴォワールがサルトルに宛てた手紙の中で、キングに言及している。“Letters to Sartre”という書簡集に収録されている1938年の手紙で、英訳では次のようになっている。

 ‘I forgot to tell you that the novel by Mr. Daly King is vaguely entertaining, but scientific. The novel by M. Boileau is appalling, unreadable, but contains a neat problem with an elegant solution. I’ve already lost the little guidebook - and also my soap and toothbrush. I’ll buy some more soap, but as for the guidebook I knew it by heart.’

 38年ということは、当時未刊の“Bermuda Burial”を除き、同年発表された“Arrogant Alibi”までのいずれかの作品を指していると思われるが、タイトルを挙げていないので分からない。
 「何となく面白いけれど科学的」とは言い得て妙だが、「科学的」という評からすると、“Careless Corpse”の青酸発生にかかる科学知識を指しているのかもしれない。ちょうど38年に“‎Symphonie en Crime Majeur‎”(大罪のシンフォニー)という同作品の仏訳が出ているので、その可能性はある。もちろん心理学の知識を詰め込んだ初期のオベリスト物も十分「科学的」と言えるので、どれを指すのかは確信が持てない。
 ボアローは、ピエール・ボアローを指すと思われるが、これもどの作品を指すのかは不明。年からすると、同年刊行の『三つの消失』かもしれない。「ひどくて読むに耐えないけれど、巧みな謎と素敵な解決を含んでいる」という評も、確かにこの作品の評としては全く同感だ。
 いずれも、題名が引用されていないことから考えて、相手が作品を承知していることが前提されているので、サルトルの勧めでこれらの作品を読み、感想を知らせたものと思われる。つまり、サルトル自身もキングを読んでいたわけだ。
 彼らのような文豪がキングやボアローを読んでいたというのは興味津々といえるだろう。ガイドブックを持っていたというだけでなく、暗記していたというのだから相当なミステリ通だと分かる。意外というだけでなく、なんとなく嬉しい気持ちになる。
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