キングの英語表現

 チャールズ・デイリー・キングの“Careless Corpse”を読んでいると、米版の“The Curious Mr. Tarrant”を読んだ時にも気づいたことだが、キングはアメリカ人のはずなのに、スペルがcolour、honour、specialityという具合に、しばしばイギリス式になっているのに気づく。
 スペルだけでなく、トイレがlavatory、ズボンがtrousersと、単語までがイギリス英語になっていて、魔法瓶も、thermos bottleではなく、thermos flaskとなっているのを見ると、これはかなり徹底していることが分かる。
しかし、その一方で、舞台はアメリカだし、登場人物、特に警察関係者などは、アメリカ人らしい口語表現を使っているものだから、なおのこと違和感があるのだ。
 同じことは、“Arrogant Alibi”にも当てはまり、やはりイギリス式表記が目につく。しかし、realise、materialise、despatchといったスペルやground storeys(アメリカならfirst floors)、mackintosh(アメリカならraincoat)といった言葉が出てくる一方で、windshield(イギリスならwindscreen)やflashlight(イギリスならelectric torch)という単語も出てくるところを見ると、必ずしも徹底されているわけではない。会話もいかにもアメリカ的だ。アメリカ式の文体の中に、ぎこちなくイギリス式の単語や表現をちりばめているという感じなのだ。
 これは、キングの作品の大半がイギリスから初版が出て、米版がなかなか出なかったという事情と関係があるのかもしれない。考えられる可能性は二つある。(1)コリンズ社の校正係が敢えて几帳面にイギリス式の訂正を行った。(2)キング自身が、出版社からの要請に応じて、あるいは、イギリスでの出版を意識してそうした、というものだ。
 もし著者自身の意図だとすれば、キングは、本格的な探偵小説はアメリカよりイギリスの市場の方がふさわしいと考えていたのかもしれない。だから、かえってアメリカの版元を見つけにくくなってしまったのかもしれないし、そもそもがアメリカでの出版にさほど積極的でなかったことも考えられる。
 この可能性を示唆するのは、“Bermuda Burial”のダスト・ジャケットの見返し。そこにはこう書かれている。
「C・デイリー・キングはニューヨーク出身だが、ロンドンでの出版を優先して小説を書いている。わくわくするプロットを展開する彼の抜きん出た才能は、魅力的で上品な人々を感動させるものであり、現代ミステリ小説の本場であるイギリスにおいて幅広い読者を獲得した」。
 つまり、キングは自分の小説がミステリの本場イギリスの読者層にこそアピールするものと考え、意図的にイギリスでの出版を優先していたことが示唆されているのだ。(もっとも、これも帯の惹句のようなものだから、どこまで本当かは心もとない。)
 ただ、もう一つの可能性も捨てたものではない。というのも、ヘレン・マクロイの作品の英ゴランツ社版を読んでいても気づくのだが、これまたスペルがしばしばイギリス式に改められているのだ。これは明らかにゴランツ社の校正係が手を入れた結果だろう。案外、キング作品の英国式表現も、コリンズ社の校正係が律義に手を入れた結果なのかもしれない。米版でもそのまま反映されているのは、アメリカの出版社がそれほど神経質ではなく、キングもこだわりを持たなかったので、英版をそのまま転用したのかもしれない。
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