ジョゼフ・カミングズ “The Fire Dragon Caper”

 “The Fire Dragon Caper”は、Mike Shayne Mystery Magazine誌1984年5月号に掲載されたバナー上院議員物の中編。

 舞台は香港。現地に駐在するウォルター・セヴン大佐は、銀行支配人のウィル・テダーズから相談を持ちかけられる。
 化学者のフォントルロイ伯爵が、核分裂によって金の延べ棒の容量を増大させる方法を発見したというのだが、これを知った、銀行の最大の預金者であるインド人のネンブッダ氏が、テダーズ氏の銀行に預けた金でその実験をやらせたいという。協力してくれないのなら、預金を他行に移すというので、テダーズは引き受けることにしたのだが、三万ポンドもの多額の金貨を実験に使うというので、セヴン大佐の協力を請い、その実験の警備をしてほしいということだった。
 実験室には、波止場にある使用されていない倉庫が選ばれ、金貨が運び込まれた。倉庫は、銀行の金庫室のように改造され、ドア一つを除いて出口を封鎖し、周囲は警備員で固められた。作業には二、三か月かかるという。伯爵は、作業が終わるまで実験室に誰も入れさせないという条件を付けたが、伯爵が実験室のドアを出入りする時は必ず全身チェックを受け、銀行が雇った出入りの掃除夫も同じく徹底的にチェックを受けた。
 ある朝、伯爵が姿を見せないのを不審に思ったセヴンは、伯爵が滞在していたホテルに行くと、既に伯爵は姿を消していた。セヴンが実験室に警備員を踏み込ませると、金貨は跡形もなく消え去っていた・・・。

 本作では、密室からの金貨の消失という謎だけでなく、一人しかいないはずの金庫室内での射殺という謎も扱われている。謎解きに取り組むのは、旅行中のバナー上院議員。いずれの謎も、設定自体はいつもながら魅力的なのだが、肝心の謎解きになると、やはり釈然としないものが残る。
 不可能犯罪の謎解きは、心理的な盲点を突くような鮮やかさとシンプルさを伴う場合には感心することが多いのだが、いくら実行可能で、複雑すぎない仕掛けを用いていたとしても、小細工を弄したにすぎないようなトリックの場合には、つまらなさばかりが後味として残ってしまう。不可能犯罪物には、たいていこうしたリスクが伴うもので、他のタイプの謎解き物に比べると、歩留まりはかなり低いと言わざるを得ない。
 バナー上院議員物についても同様で、「Xストリートの殺人」のような佳作はむしろ少数であり、安易な思いつきの小細工を用いた作品に立て続けに接すると、さすがにうんざりしてくる。カーのように、トリックだけ取り上げれば、やはり厳しめの評価になるのかもしれないが、不可能犯罪の設定とストーリーテリングのうまさとが巧みに相乗効果を上げて、雰囲気や事件の展開を盛り上げることのできた作家は、別格の存在だったのではないだろうか。


Mike Shayne84.5
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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