ジョゼフ・カミングズ ‘The Last Samurai’

 ‘The Last Samurai’は、The Saint Mystery Magazineの1963年12月号に掲載されたバナー上院議員物の短編。

 舞台は、1947年夏の日本。東京では極東国際軍事裁判におけるA級戦犯の裁判が進められていた。ところが、ある晩、被告の一人である大原大佐が巣鴨プリズンから脱獄し、姿を消してしまった。
 憲兵司令官を務めるウォルター・セヴン大佐は、マッカーサーを支援するために来日していたバナー上院議員にその事件を話すと、バナーは、自分が大原に脱獄を勧めたのだという。だが、大原はバナーが提案した方法で脱獄したのではなかった。
 大原大佐と山形将軍は、ニューギニアでの虐殺行為で裁かれていたが、証人が少なく、裁判は難航していた。大原は上官である山形の指示を忠実に守り、山形の不利になる証言はしないと誓っていた。しかし、通訳を務める女性の辻と話すうちに、大原は判断が揺らぎ、真実を話すつもりになっていた。
 大原は、辻を介してバナーに電話をかけてきて、証言をさせないために、山形が自分を殺そうとしていると訴えてきたのだった。囚人は互いに離れた独房に収容され、一人ひとりに監視が四時間交代で昼夜ずっとついていて、囚人同士連絡することもできないはずだった。それでも、大原は山形を恐れ、ほかの監獄に移してくれるよう要請したものの、却下されたという。
 バナーとセヴンは、大原が脱獄した時に監視を担当していたホワイト軍曹から事情を聴く。ホワイトの話では、その日、大原たち囚人は、裁判のあと巣鴨プリズンの各人の独房に戻され、夜は青い作業服を着せられていたという。監視についてから一時間ほどして独房を覗き込むと、大原は意識を失って倒れていた。ホワイトは独房の鍵を持つハミルトン大尉を呼んで開けさせ、大原を医務室に運ばせてベッドに寝かせたが、医師が診ても、大原は意識を失っているだけで、特に異常はなかった。
 ホワイトは引き続き医務室の外の廊下に立って監視を続けたが、しばらくして中を覗くと、大原は姿を消していた・・・。

 戦後の日本を舞台にした作品で、この当時らしく、富士山、芸者はもちろんのこと、相撲や歌舞伎などの日本文化の描写が出てくるところが面白いが、必ずしも不正確ではないものの、当時のアメリカ人の日本に対する固定観念を表しているようでもある。それだけに、戦後間もない荒廃した東京の状況描写が出てくるところと妙にそぐわない印象を受ける。
 監獄からの脱出という不可能状況を設定しているが、作者は惜しげもなく、バナーが大原のために考案した脱獄方法と、実際に大原が姿を消した方法の二つのトリックを投入している。
 カミングスは、いずれのトリックにおいても、日本文化に取材した知識を活用しているのだが、よく知らない外国人が読めばともかく、日本人読者なら、いささか荒唐無稽に感じるところだろう。純粋にトリックとしてみても鮮やかさに欠けていて、やはり釈然としない。
 なお、セヴン大佐は、以前紹介した‘The Fire Dragon Caper’にも登場しているが、順序としては本作のほうが先になる。


Saint Mag63-10
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