ローレンス・G・ブロックマン “Dr. Coffee and the Pardell Case”

 “Dr. Coffee and the Pardell Case”は、本国版EQMMの1972年6月号に掲載された、ダニエル・ウェブスター・コーヒー博士物の単行本未収録の中編。

 ノースバンク警察殺人課のマックス・リッター警部補の部屋に、助けを求める電話がかかる。かけてきたのは、ピート・パーデルという、警部補のかつての友人だった。二人はともにハイ・スクールに通った仲だったが、ピートは不幸な家庭に育ち、貧困から這い上がって成功した弁護士になっていた。
 ピートは、ハイ・スクール時代に、元バス運転手の家に間借りしていたが、その娘のエリカとねんごろになり、家賃も払っていなかった。卒業後にエリカとの結婚を期待されていたのに、ピートは行き先も告げずにノースバンクを去り、その後間もなく、エリカは敗血性流産で亡くなっていた。
 弁護士になったピートは、運転手付きのリンカーン・コンチネンタルに乗り、贅沢に身を包んだ妻を連れて故郷に錦を飾り、ノースバンクの高級住宅地であるインディアン・ヒルに邸を買い、時おり週末に戻ってきていた。
 ピートは過去に、賄賂事件でグラックという賭博師を有罪にしていた。リッター警部補は、グラックが5年の刑期を終えて出所したという情報を得て、ハイ・スクール時代以来はじめてピートを訪ね、昔のよしみからではなく、犯罪を未然に防ぐために、パーデルに身辺警護をつけることを申し出ていた。しかし、パーデルはリッターの申し出を断っていた。
 電話がかかってきたのは、その翌日で、ピートは、男に車であとをつけられ、なんとか邸まで戻り、部屋に鍵をかけたが、男がドアを破って入ってこようとしているという。そのうち、ピートの言葉は途切れ、受話器の向こうからは苦しげな呼吸音しか聞こえなくなる。
 リッター警部補は邸に急行するが、邸では、使用人のほとんどが非番でおらず、ただ一人いた執事は、地下の部屋で酔い潰れて寝ていた。ピートの部屋は内側から鍵がかかっていて、ドアを破って入ると、ピートは恐怖で目を見開き、手に受話器を握ったまま床に倒れて死んでいたが、出血の痕跡はなく、暴力をふるわれた様子もなかった。部屋は、ドアも窓もすべて鍵がかかり、煙突もふさがれていて、完全な密室状態だった。
 警部補は、パーデル夫人の応接間からコーヒー博士に電話をかけ、事情を話して検死解剖を依頼するが、話しているうちに、足元の敷物に血痕らしきものがあるのに気づく・・・。

 密室の謎、死因の謎に加えて、落ちぶれて邸の管理人をさせられている邸の元所有者、娘の恨みを晴らそうとする元運転手など、多彩な容疑者を揃え、ハウダニット、フーダニット、さらには、ホワイダニットと、謎解きの要素をふんだんに盛り込んで全体のプロットを練り上げているところがうまい。コーヒー博士は、プードルの検死解剖までやらされるが、この死んだプードルも、その謎自体興味深いだけでなく、重要な手がかりをなしている。
 ロバート・エイディの“Locked Room Murders and Other Impossible Crimes”でも取り上げられているが、密室の謎自体は、どちらかといえば副次的な要素で、比較的早い段階で種明かしされる。ところが、これに続けて、犯行を自供した男の所持していた銃が、摘出された弾丸の口径と一致しない事実が判明するなど、立て続けに謎を提示して展開を盛り上げていくところにも、ブロックマンらしい巧者なストーリーテリングが光っている。中編のボリュームで処理するには惜しいほどの好編である。


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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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