ジョン・ロード “Shot at Dawn”

 “Shot at Dawn”(1934)は、プリーストリー博士の登場する長編。

 ハンスリット警視は、地方の川で起きた事件の捜査で、州警察本部長のペニストン大佐から支援要請を受けて出張してくる。
 事件は、リディング川に停泊していたモーター・クルーザー「アロンドラ号」で起きた。船は河口近くに錨を下ろして停泊していたが、朝、手漕ぎボートで川釣りに出てきたフェアロンという男が、船のそばを通りかかると、男がキャビンの上に横たわっていて、そこから血が滴り落ちているのに気づく。男は頭を撃たれて死んでおり、仲間がキャビンの中で寝ていたが、熟睡していて、フェアロンがキャビンの天窓を激しく叩いて起こすまで目を覚まさなかった。
 目覚めた男の話によると、彼の名はモアビーといい、死んでいた仲間はクロスランドという。二人は同じヨット・クラブの仲間で、4、5年前に知り合ったが、モアビーはクロスランドの私生活についてはよく知らなかった。「アロンドラ号」は、クロスランドの提案で共同購入した船であり、モアビーは航海術に通じていたため舵とりを担当し、クロスランドは工学面が得意でエンジンを担当していたという。
 クロスランドは町にいる知り合いと会う約束があったため、海からリディング川を遡って町まで行く予定だった。川の上流には、リディングハイズという、かつて港として利用されていた上陸地があったが、今ははしけが時おり往来するだけの川だった。クロスランドはその川に来たことはなかったというが、モアビーは1、2度来たことがあった。
 リディング川は、上げ潮時には8、9フィート程度の深さになり、川幅が広がって浅い湖のようになるが、引き潮時には1、2フィート程度の深さになり、船が進めなくなる。その日のうちにリディングハイズに着くためには、潮が高く、明るいうちに行く必要があったが、クロスランドがエンジンの調整が必要と主張し、これに時間を要したため、川に入った時には夕方の5時半になってしまう。そこで、二人は、翌朝、潮が上がる時間に出発することにして、その夜は川に停泊することにしたのだった。
 船の中で食事をとったあと、二人はクロスランドが出してきたウィスキーを飲んだが、モアビーは不覚にも飲み過ぎてしまい、出発の予定時間までに目を覚ますことができなかったという。
 クロスランドの死体の検死を行った医師は、銃創からして、弾は長距離から撃たれたものと判断する。クロスランドの頭を貫通した弾が帆柱をかすめたらしい跡と、潮の流れから船が向いていた方向から考えて、弾が飛んできた方角を推定すると、その方向の川岸には、チャールズ・ブランズベリー卿が所有するライフル射撃場があった。
 その日の朝も、射撃場で射撃練習をしていた者がいたため、逸れて飛んできた弾に被弾した事故とも考えられたが、射撃場の的のうしろには弾が外に逸れて飛んでいかないように盛り土が設けられていた・・・。

 プリーストリー博士は中間近くまで登場しないが、中期以降の作品に見られる定型パターンには陥らず、ストーリーにも起伏があって読み応えがある。博士自身も、現場まで出かけ、自ら「アロンドラ号」に乗り込んで調査するなど、いかにも初期作品らしい活動的なところを見せている。
 博士はハロルドとともに「アロンドラ号」に乗り込み、コルクを使って潮の満ち干に伴う川の増水と流れの速度の変化を調べるが、その結果を示すグラフが途中に挿入されている。停泊場所や射撃場等の位置、推定される弾道等を示した見取り図も冒頭に挿入され、これらのビジュアルな手がかりも示しながら、(漫然と読み流せば難解な印象を与えるかもしれないが)実に緻密な推理が展開される。
 そこから導き出される結論も先入観を覆すものだが、フーダニットとしても、ロードとしては成功した部類に入ると言える。(ただ、ロードには犯人の描写に一定の癖があり、彼の作品を読み慣れた読者には、そこから「ゲームの慣習」で犯人を当ててしまいやすいかもしれない)。クロスランドが年代物の文書の売買を隠れ蓑に麻薬密売に携わっていたという疑惑も、鮮やかなミスディレクションとして活用されていて、犯人や動機の謎とうまくリンクされている。プリーストリー博士は、事件の謎解きを終えると、「問題が納得のいくように解決した以上、この事件への関心はなくなったよ。クロスランドの殺害犯が裁かれようとどうしようと、私には興味がない」とあっさり言い放ち、ハロルドとロンドンに帰ってしまう。これはいつもの博士の持論だが、フーダニットとシニカルな結末とも相まって、いつも以上に余韻を残している。巧妙な仕掛けを随所に散りばめ、全体としてもよくまとまった佳作と評価できるだろう。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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