ジョン・ロード “Proceed with Caution”

 “Proceed with Caution”(1937)は、プリーストリー博士の登場する長編。

 8月のある早朝、ファロウチャーチという村のパブ「グリーン・ベア」の主人、ウェジウッド氏が目を覚まして窓から外を見ると、店の前に霊柩車が停まっているのに気づく。縁起でもない車が停まっていることに、迷信深い氏は不快感を覚え、運転手が車の中で寝ているに違いないと思い、起こしに外に出るが、運転席には誰もおらず、棺桶が中に積んであるのに気づく。
 通報を受けた巡査は、運転手はガス欠でやむなく停めただけで、いずれガソリン缶を持って戻ってくるはずだと氏をなだめるが、日中になっても誰も現れず、タンクを調べると、ガソリンは十分入っているし、運転にも支障がないことが分かる。
 そこへ、道路にタールを塗る作業を行っていた工事監督のガーニーがやってきて、道路に置いてあったタールのボイラーの中に死体が入っていると巡査に告げる。ボイラーは、作業員たちが来る前に既に火がくべられ、タールが煮立っていたため、異変に気づいたガーニーがボイラーの中を棒でかき回すと、死体があるのに気づいたという。ボイラーを横倒ししてタールを流し、死体を取り出すが、熱したタールのせいで死体はほとんど身元識別不能な状態になっていた。
 事件はスコットランド・ヤードに通報されるが、ハーウェルのダイヤモンド事件で手がふさがっていたハンスリット警視は、事件を部下のワグホーン警部に任せる。
 ワグホーン警部が謎の霊柩車の棺桶を開けて中を確かめると、そこには砂利が詰まっていて、その砂利は死体が発見された道路の砂利と同じものだと分かる。霊柩車の購入者を調べると、アルフレッド・パントニーと、その義兄のジョン・アンブローズと名乗る二人組だったことが分かる。パントニーは「グリーン・ベア」の常連客で、口唇裂と潰れた左耳という顕著な特徴があったため、霊柩車を購入したのは間違いなく彼本人と確認されだが、その日以来、行方不明となっていた。
 パントニーは富くじで当てた大金を蓄えていたことから、最近、パントニーと親しくなったカートメルという謎の男が、その金を奪う目的でパントニーに接近し、殺害して霊柩車で現場まで運び、ボイラーに遺棄したものとワグホーン警部は推測する。ところが、その後、パントニーが元気な姿でパブに現れて村の人々を驚かせ、事件の謎は混迷を深めていく。
 一方、行方不明のダイヤの事件に携わるハンスリット警視もまた捜査に行き詰まっていた。
 事件は、スタニスラス・ハーレル卿が、130年前に祖先がロシアから持ち帰ったダイヤを鑑定に出したことに端を発していた。スタニスラス卿は、そのダイヤの装身具が旧式で大型だったことから、当世風に再加工したいと考え、学童時代の友人だったパットンがパットン・アンド・フェアフィールドという宝石商のシニア・パートナーであることを思い出し、ダイヤの鑑定と再加工を依頼していた。
 パットンは、ダイヤにスタニスラス卿が想定していたほどの価値がないことを知り、鑑定結果と処分の仕方について所見を伝えるため、預かったダイヤを持参して邸を訪れるという手紙をスタニスラス卿に送る。手紙を受け取ったスタニスラス卿は、パットンを迎えにスワインズヘッド駅まで車を向かわせる。ところが、運転手がいくら待っても、パットンは予定の時間に駅から現れず、ダイヤとともに行方不明となってしまう。
 切符の発行記録と宝石商の事務員や駅の赤帽の証言から、パットンは間違いなくキングス・クロス駅から列車に乗っていたことが確認されたため、途中のグランサム駅で降りたものと推測された。事件が起きた時、共同経営者のフェアフィールドは海外出張中だったが、帰国したフェアフィールドの協力を得てハンスリットがパットンの部屋を調べると、パットンのパスポートがなくなっていることが分かる。その後、フランスに向けて出航する船の波止場で、破損したパットンのパスポートが発見される・・・。

 ハンスリット警視とワグホーン警部はそれぞれ違う事件を担当し、各人の捜査が個別に描かれるのだが、二人がプリーストリー博士に意見を求めると、やがて二つの事件は関連していることが明らかになり、複雑なプロットが浮かび上がってくる仕掛けとなっている。
 油の乗った時期の作品らしく、プロットをよく練ったことが感じられるし、二つの事件の進展を並行的に描いていることもあって、中期以降の作品のように展開に中だるみがなく、退屈さを感じさせないところは好印象だ。
 しかし、二つの事件の結びつきを明らかにする推論の過程はいかにも弱く、プリーストリー博士の推論は、論理的な必然性よりも、やや恣意的で直感的な印象を与えてしまう。犯人も隠し方が見え見えで、推理小説を読み慣れた読者なら、「ゲームの慣習」によってほぼ確実に当ててしまうに違いない。
 “A Catalogue of Crime”のバーザンとテイラーも「期待外れ(disappointing)」と手厳しい評を下しているが、プロット自体は悪くないだけに、伏線の設定や推理の部分をさらに彫琢していればよい作品になったのではないかと惜しまれるところだ。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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