T・H・ホワイト “Darkness at Pemberley”

 テレンス・ハンベリー・ホワイトは、映画「キャメロット」の原作となった、アーサー王伝説を題材にしたファンタジー小説『永遠の王』(1958)で知られる作家。“Darkness at Pemberley”(1932)は、ホワイトが犯罪小説に手を染めた初期の作品であり、密室物の古典の一つとしても知られる。

 あるケンブリッジの大学で二件の殺人事件が起きる。被害者の一人は、セント・バーナバス・カレッジのフレイザーという大学一年生。もう一人は、セント・バーナード・カレッジのフェローで学寮長のビードンだった。
 セント・バーナードのフェローで化学の教師をしているモールヴェラーは、ウィーンズという学生とビードンと一緒に観劇に行く予定だった。モールヴェラーがウィーンズを連れてビードンを部屋に呼びに行くと、ドアには鍵がかかり、ノックをしても返事がない。すると、部屋の中でレコード・プレーヤーが作動して音が鳴り始め、ビードンは在室しているらしいことが分かるが、それでも返事はなく、二人は諦めて劇場に向かう。
 同じ日、その近隣にある下宿屋の部屋で、女主人がフレイザーの死体を発見する。フレイザーは、離れた距離から眉間を撃ち抜かれ、顔には驚きと恐怖の表情が表れていた。しかし、フレイザーを殺害する動機は誰にも見あたらなかった。
 その翌朝、ビードンの部屋を整えに来たメイドが彼の死体を発見する。椅子に座った状態で、至近距離からこめかみを撃たれ、手にはサイレンサー付きのオートマチックを握っていた。銃はフレイザーを撃ったものと同一と判明し、ビードンがフレイザーを殺害したあと、自殺を図ったものと思われた。
 ところが、両事件の捜査に携わるブラー警部は、警察医から、弾丸や二人の被害者の傷を分析した結果、最初に殺されたのはビードンのほうであり、フレイザーはその直後に殺されたことを告げられる。
 ブラーは真相に気づき、真犯人に迫るが、有罪を立証できるだけの証拠はなく、真犯人は二つの殺人事件の経緯を詳細に説明し、第三の殺人まで告白してブラーに向かって勝ち誇る。
 二週間後、この事件をきっかけに警察を退職したブラーは、ダービーシャー州のペンバリーという田舎に住むチャールズ・ダーシー卿の招待を受け、休日を過ごしにその邸に赴く。チャールズ卿は、かつて、酔った勢いの過ちから麻薬事件に巻き込まれ、事故で妻を失い、自らも刑期を務めた過去があり、今は妹のエリザベスとともに邸で静かに暮らしていた。
 ブラーは、ケンブリッジでの事件の経緯と真相をチャールズ卿と妹に語るが、チャールズ卿は義憤に駆られ、ケンブリッジに赴いて真犯人に会い、自分の手でお前を殺すと宣言してしまう。真犯人の悪魔的な性格を知るブラーは、犯人がチャールズ卿の抹殺に動き出すと確信し、エリザベスや邸の使用人達とともに予防策に乗り出すが・・・。

 図面を三枚挿入するなど、出だしはいかにも古典的な設定の謎解きの体裁となっているが、犯人もトリックもすぐに明らかにされ、後半はブラー元警部やチャールズ卿たちと真犯人との対決を描くスリラー・タッチの展開となる。
 “Locked Room Murders and Other Impossible Crimes”のロバート・エイディも本作を取り上げているが、「スリラーと探偵小説の見事な組み合わせであり、おそらくこれまでに創造された最も狡猾で冷血な犯罪者が登場する」と付記している。“A Catalogue of Crime”のバーザンとテイラーも、「見事な性格描写と昔ながらの密室物の謎を解き明かす実行可能な仕掛けを提示した稀有な作品」と一定の評価を与えている。
 ただ、さすがに今日的視点から見ると、用いられたトリックは時代を感じさせるものだし、メカニカルな仕掛けは時代遅れになりやすいという好例でもあるように思える。
 犯人の造形は確かに個性的で面白いが、後半のスリラーめいた追跡劇はやや通俗的だし、邸の構造内で活動する犯人の動きやブラーたちの対応ぶりも、なにやら荒唐無稽で現実離れした印象を抱いてしまう。バーザンとテイラーも「プロットは弱い」としているが、確かにもう少しリアリティを感じさせる程度にプロットを練り上げる余地はあったかもしれない。ホワイトが再び犯罪ジャンルに手を染めなかったことを考え合わせても、作者にとっては初期の習作的な作品に位置づけられるべき小説なのかもしれない。
スポンサーサイト

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

S・フチガミ

Author:S・フチガミ
お問い合わせ等は
fuhchin6491
(アットマーク)
hotmail.co.jp
へどうぞ

カテゴリ
フリーエリア
天気予報
リンク
検索フォーム
アクセスカウンター
RSSリンクの表示