F・W・クロフツ ‘Danger in Shroude Valley’

 クロフツは、1947年にジュヴナイル物のミステリとして『少年探偵ロビンの冒険』を出版している。‘Danger in Shroude Valley’は、同作の主人公、ロビン・ブランドとジャック・カーを再登場させた短編であり、“The Golden Book of the Year”(1950)というジュヴナイル物のアンソロジーに収録されている。

 はしかの流行のせいで学校が休みになり、ロビン・ブランドは、友人のジャック・カーの家族と一緒にスウィンレイという町で休日を過ごしていた。ジャックの父親は技師であり、スウィンレイの鉄道の改修工事に携わっていて、その町に家を借りていたのだった。
 ある晩、ロビンはジャックに誘われて、柵をくぐってバスステーションの建築現場に忍び込む。ところが、そこで二人の男が犯罪を企んでいるらしい話をしているのを聞いてしまう。ロビンたちが男たちを見下ろせる足場の上に上ると、さらに二人の男が加わり、ボスらしい男が犯罪の段取りを説明し出す。どうやら、信号を操作して列車を停め、車掌を捕えて縛り上げる計略のようだった。
 ロビンたちは、一味の一人、バーケットのあとをつけることにしたが、途中で見失ってしまう。そこで二人は、ジャックの父親、カー氏に経緯を話すが、カー氏は、彼らが列車を爆破して、なにかを奪おうとしているのではないかと推測する・・・。

 『ロビンの冒険』もそうだったが、謎解きというより、少年たちが巻き込まれる冒険ものである。とはいうものの、そこはクロフツらしく、「ボックス」という言葉の意味など、謎解き的な要素を盛り込んだり、現場の見取り図も挿入するなどしてミステリらしい興趣を添えている。ただ、発端からして『ロビンの冒険』に設定がそっくりで、事件の展開はまるで違うものの、前作を読んだ者には、なにやら焼き直し的なところが目につくかもしれない。
 前作には、フレンチ主任警部も顔を出していたが、この短編には登場せず、代わりにグリーア警部という警察官が捜査に関わる。少年たちによる自転車の追跡劇あり、間一髪の転轍機操作ありと、見せ場を幾つも設けてストーリーを盛り上げ、いかにもジュヴナイル向けの冒険ものらしい読み物となっている。
 この頃のクロフツは既に作品の発表頻度も落ちていて、『列車の死』のようなエスピオナージュものを書いたり、四福音書のリライト版を執筆したりと、次第に目立ってきたマンネリ化の傾向を打開すべく試行錯誤している様子も窺える。ジュヴナイルものに手を染めたのも、そうした試行錯誤の一つと見ることもできるが、そんな穿った見方をするより、(『ロビンの冒険』の見事な解説で霞流一氏が述べているように)「クロフツによるトム・ソーヤ・ミステリ」を素直な心で楽しむべきなのかもしれない。
 挿絵がふんだんに入っているのもジュヴナイルものらしい。画家はG・アーネスト・ラング。



Shroude Valley
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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No title

こんにちは。
ロビンものの短編があったんですねー。読んでみたいです。クロフツは未約の短編とか多いんですか?

少ないけどあります

以前の記事でも触れましたが、未訳の短編などがありますね。
“The Anatomy of Murder”に収録された犯罪実話‘A New Zealand Tragedy’
“Meet the Detective”に収録されたフレンチの紹介文‘Meet Chief-Inspector French’
“Great Unsolved Crimes”に収録された未解決事件の犯罪実話‘The Gorse Hall Mystery’
“Detection Medley”に収録された‘The Match’(別題:‘Mr. Sefton, Murderer’。短編「狩猟舞踏会」の別バージョン)
「イヴニング・スタンダード」紙に載った短編‘The Faulty Stroke’、‘The Target’
(‘Fingerprints’という短編もあるが、「指紋」という題で「別冊宝石」に掲載されたことあり)
それと、今回ご紹介した‘Danger in Shroude Valley’です。
このうち、‘The Gorse Hall Mystery’、‘The Faulty Stroke’、‘The Target’、‘Danger in Shroude Valley’については、私の知る限り、邦語リファレンス・ブックや邦訳『フレンチ警視最初の事件』掲載の作品リスト、ネット上の邦語データベースでも挙げられていません。
とはいえ、たったこれっぽちしか未訳がないというのも驚きで、英米ではなお堅調な人気を誇るアリンガムやマーシュ、あるいはスタウトが我が国でどれだけ紹介されているかを考えると、彼我の待遇の違いを実感せざるを得ませんね。

No title

詳しいお返事ありがとうございます。
確かに日本人はクロフツが好きみたいですよね。私も翻訳があるのは全部読んでみました。鮎川哲也のような本格ものでもあり、松本清張のような社会派でもあるのが面白いところですね。
論創社あたりでまた短編集だしてほしいなー

おっしゃるとおり、鮎川哲也、西村京太郎など
クロフツの影響抜きには語れない作家が日本には何人もいますね。
クロフツがいなければ日本の推理小説のあり方は大きく変わっていた
といっても言い過ぎではないだろうと思います。
英米では忘れられた作家のように思われがちですが
私が北米に住んでいた時に、近所にクロフツの大ファンがいて
『海の秘密』のプロットを詳しく解説しながら
「彼の作品はほとんど持ってるんだ」と自慢していました。
コレクターでもあったんでしょうけど、日本だったら
文庫で簡単に読めるのに、とも思ったものでした。
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