アラン・トーマス “The Death of Laurence Vining”

 “The Death of Laurence Vining”(1928)は、「エレヴェーター内の密室殺人」を扱った不可能犯罪物の古典として知られる作品。同テーマの作品としては、カーター・ディクスン&ジョン・ロードの『エレヴェーター殺人事件』があるが、意外と珍しいようだ。

 ローレンス・ヴァイニングは、アマチュア犯罪研究家であり、スコットランド・ヤードに協力して幾つもの難事件を解決し、最近でも、「ショップの殺人」として知られる事件を解決して、容疑者の有罪判決を見届けたところだった。
 ヴァイニングには、親代わりになって育ててきたジャック・ランサムという医師の卵の甥がいた。ジャックはヴァイニングの秘書のパメラ・ジャクスンと結婚したいと望んでいたが、ヴァイニングは激しく反対し、指示に従おうとしないジャックに、生活費の支給を打ち切り、遺産相続からも締め出すと通告する。
 ヴァイニングは、「レッド・ハット」と名乗る女性から支援を求める手紙を受け取る。手紙には、日時を指定して、地下鉄ハイド・パーク駅の新聞雑誌売り場で会いたい、自分の目印は赤い帽子だと書いてあったが、それ以上の詳細はなかった。
 ヴァイニングは、指定通り、ハイド・パーク駅に行き、地下鉄のプラットホームに降りるエレヴェーターに一人で乗る。エレヴェーターが下降してきて、ドアが自動的に開くと、ヴァイニングはそのままエレヴェーターの外に倒れ込む。
 ちょうどその時、ヴァイニングの友人、ベン・ウィリング医師は、ハイド・パーク駅で下車したところだったが、改札係を兼ねたエレヴェーター運転係とともに、異常に気づいてエレヴェーターに駆け寄ると、ヴァイニングの背中からは短剣が突き立っていた。短剣は心臓に達し、即死状態だった。
 事件を担当するのは、スコットランド・ヤードのウィジャン警部。警部は、上のエレヴェーターの乗り口のところにいたエレヴェーター係にも尋問するが、係のビーチャムは、ヴァイニングは乗り込んだ時にはピンピンしていたし、ほかには誰も乗らなかったと証言する。
 凶器は、ヴァイニングが家に所蔵していたマラヤの短剣と判明する。ハイド・パーク駅の近くには、ジャックが勤めていたセント・ジョージ病院があり、ヴァイニングの遺体はそこに運び込まれていた。ところが、ジャックは消息が分からなくなり、病院のジャックの部屋からは、短剣のさやが発見される・・・。

 図面を挿入するなど、本格仕立ての雰囲気たっぷりだが、ヴァイニングの家政婦で、ジャックを幼い頃から面倒を見てきたベイトマン夫人、マレー人の使用人で、事件後にこれまた行方をくらましてしまうスレイマンなど、(さほど性格描写が濃厚というわけでもないが)それなりに面白い登場人物たちを配置したり、マラヤの短剣にまつわるエピソードやジャックの出生の謎などのサブプロットを織り交ぜて、無味乾燥な謎解き物に陥らないようストーリー展開に苦心した跡が窺える。
 ハウダニットとして見た場合、コアとなるトリックは、決して荒唐無稽で呆気にとられるような代物ではないし、『エレヴェーター殺人事件』のようなメカニカルなものと比べても、比較的すっきり理解しやすい点が好感が持てる。ただ、現実味や蓋然性を持たせようと苦心するあまり、犯人が立てた慎重すぎるほどの計画を謎解き部分で説明するのがかえって饒舌で退屈となり、裏目に出てしまっている。
 全体のプロットとしては、クリスティの有名作品を意識した面も感じられ、フーダニットとしての工夫の跡もあるのだが、動機に説得力が乏しいなど、いずれの要素も生煮えで、可もなく不可もなしの印象の乏しい作品になっているのが残念なところか。



Laurence Vining
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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