カーティス・エヴァンズ “Masters of the “Humdrum” Mystery”

 “Masters of the “Humdrum” Mystery”(2012)は、ジュリアン・シモンズが“Bloody Murder”で「退屈派」というレッテルを貼った作家たちを取り上げた評論である。シモンズが挙げた「退屈派」とは、F・W・クロフツ、ジョン・ロード、R・A・J・ウォリング、J・S・フレッチャー、ヘンリー・ウェイド、コール夫妻のこと。シモンズは、クロフツを除く5組の作家たちについては、名前に言及するのみで、作品名にすら触れようとしなかった。(他の著述の中で、J・J・コニントン、E・R・パンション、ロナルド・ノックスについても同様の扱いをしている。)
 シモンズがこのレッテルを貼った理由は、これらの作家たちが小説家としての才に乏しく、パズルを構築する技能はあっても、ほとんどそれだけに限られているという点にあった。英ミステリ界の重鎮による評価だけにその影響も大きく、黄金期の本格謎解き作品を支持する読者や評者から反論や批判がなされてきたことは、クラシック・ファンなら周知のことであろう。
 これらの作家については、これまで、バーザンとテイラーの“A Catalogue of Crime”のように、ロードやウェイドの作品を積極的に取り上げたリファレンス・ブックや、ロードの“The Claverton Mystey”復刊に寄せたキーティングの序文など単発的な評論は存在したが、クロフツはともかく、特にロードやコニントンについて、本作のように、作者の私生活や個別の作品にも踏み込んでこれだけ集中的に論じた本格的な評論は初めての試みではないかと思われる。
 著者のエヴァンズは、上記の作家の中でも、ロード、クロフツ、コニントンを「巨匠たち」として個別に章を設けて論じているが、著者のこれらの作家たちへの深い愛着と、過去の不当なレッテルを覆そうとする熱意がひしひしと伝わってくる力作である。書影、作者とその家族や居宅など、貴重な写真が多数挿入されているのも興味深い。

Master of Humdrum

 やや本題から離れるが、我が国にも、同様にロードやウェイドの再評価に努め、先駆的な業績を残した方がおられた。(それだけでなく、埋もれた古典作品の紹介や再評価に長年にわたって多大の尽力をしてこられた方だった。)私自身も個人的にお世話になった方だったが、先月、薬石効無く惜しくも世を去られた。しかし、その遺された業績は今まさに確かな成果をもたらしつつあるのではないかと思う。ロードの代表作とされる『ハーレー街の死』も邦訳で紹介がなされたし、また、英米でも、かつては入手困難だったマイルズ・バートン(ロードの別名義)の作品が現在続々とペーパーバックで復刊されており、アマゾンでも購入可能となっている。ロード(バートン)に対する読者の関心がそれだけ高まり、ニーズを生み出したのでなければ、このような現象は考えられないことだろう。先達の優れた業績に改めて敬意を表するとともに、心から感謝の意を表したいと思う。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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それは存じ上げませんでした。
私はITオンチのせいか、恥ずかしながら
Facebookを使ったことがなく
活用の仕方も実はよく知らないんです・・
まずはよく勉強してみようと思います。
情報ありがとうございました。
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