ジョイス・ポーター『切断』

 これはイタい・・・。イタすぎる・・・。
 「イタい」というのは、作品の出来が悪いという意味ではない。それどころか、とても楽しい作品だ。ただ、これはあまりに・・・。特定カテゴリーに属する人間にとっては、これは想像するだに恐ろしい「切断」である。
 歴史好きの私としては、こういう話題になると、歴史上のこの手の「切断」と政治史との関連などを論じたくなるところなのだが、それではネタばらししないわけにいかないし、そもそも、ミステリをテーマとした当ブログの趣旨からも外れてしまう。だいたい、この作品、そんな真面目な話題にまったくそぐわないではないか。そういう話題で論じる限りにおいては、その「切断」そのものが中心テーマとなるわけではないから、さほど意識することもないのだが、この作品では、どうしても意識がそこに向いてしまい・・・。いや、これではなにを言っているのか、さっぱり分からない。イタみのあまり、文章まで混乱してきたようだ。
 夫人と休暇旅行に出かけたドーヴァー警部。途中で夫人が、海に飛び降り自殺を図った警官を目撃してしまい、嫌がるドーヴァーを無理やり警察署に連れていき・・・という発端からして、とてもフツーの探偵小説ではない。とにかく発端から最後まで「ご婦人パワー」に圧倒される作品である。特にラストの狂乱と衝撃の締めくくりには言葉を失う。私自身も恥ずかしながら恐妻家の部類に入るが、この作品に登場するご婦人方とは絶対に親しくなりたくない。
 石川喬司氏の「世界一おもしろい推理小説」(『エラリイ・クイーンとそのライヴァルたち』西武タイム所収)によると、かつて日本で実施されたアンケート調査で、この『切断』は、名だたる古典作品と並んで海外推理小説のベスト20に選ばれたこともあるようだ。もちろん、そのハチャメチャな楽しさというだけでなく、いかにも日本の読者の視点らしく、動機のオリジナリティが注目されたからに違いない。
 しかし、これは日本だけの特殊現象とも言えないようだ。実際、ドーヴァー警部物の短編を集大成した“Dover: The Collected Short Stories”に序文を寄せているロバート・バーナードも、「なかでも『切断』は、多くの読者にとって、ポーターの長編で一、二を争う人気作品だが、その主な理由は、優れた犯罪の動機にある」と語っているからだ。
 バーナードは、ケイト・スタイン編“The Armchair Detective: Book of Lists”の中で、『ドーヴァー1』をベストテンの一つに選んでいて、『欺しの天才』でもドーヴァー警部物に言及しているくらいだから、かなりのファンなのだろう。「ミステリマガジン300号記念増大号」(1981年4月号)に寄せたアンケートによれば、ポーター自身のお気に入りも『ドーヴァー1』だったようだ(もっとも、すぐに続けて、「でも、どの本もそれほど好きじゃないわ」と言っているのだが・・・)。
 『ドーヴァー1』も確かに楽しい作品ではあるのだが、この『切断』は、一種独特の感覚を味わわせてくれたという意味で、特別忘れがたいポーター女史の傑作、というか、無比の怪作である。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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