ロイ・ヴィカーズ ‘The Three-foot Grave’

 ‘The Three-foot Grave’は、ピアスン誌1934年11月号に掲載された「迷宮課」物の短編。単行本未収録作の一つである。本作にはおなじみのレイスン警部は登場せず、「夜の完全殺人」(『老女の深情け』早川文庫収録)にも登場するタラント警視が主役を務めている。
 犯人は弁護士のヘンリー・ドー。彼は、アグネス・ウィルキンスンという依頼人の女性から預かっていた金を無断で投資に回し、第一次大戦の混乱で全額失ってしまう。その後ドーは市長に当選するが、ミス・ウィルキンスンから金の返還を求められ、窮したドーは奸計をめぐらして彼女を殺害し、死体をかつて歩道橋に使われていた石板の下に埋める。豪雨のせいで増水した川のそばで、市長として式典のスピーチを行っていた最中、その川に女の死体が浮かび・・・という展開。シニカルな結末が面白い。
 本作はのちにフィクション・パレード誌1936年1月号に再録され、さらに、EQMM誌1950年10月号に‘The Impromptu Murder’と改題されて再録されたが、単行本に収録されることはなかった。
 初出誌のピアスン誌で挿絵を描いているのは、ジャック・M・フォークス。以下にアップしておく。

Grave1

Grave2

Grave3


 なお、「迷宮課」シリーズには未収録作がほかにもあり、上記邦訳『老女の深情け』で解説を書いている杉江松恋氏がシリーズの総数に疑問を呈している。杉江氏によれば、ジュリアン・シモンズが“Bloody Murder”で全38作としているが、単行本(即ち、邦訳『迷宮課事件簿1』、『百万に一つの偶然』、『老女の深情け』、『殺人を選んだ7人』)収録作が28作、未収録作が6作で、計34作しかなく、「四作足りない」とのこと。
 杉江氏が未収録作として挙げている6編とは、
 「ベッドに殺された男」 『クイーンの定員3』光文社文庫収録
 ‘The Case of the Honest Murderer’ The Department of Dead Ends(1947)収録
 「真実味」 エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン1963年11月号収録
 「鸚鵡のくちばし」 エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン1958年6月号収録
 「智の限界」 別冊宝石85号収録
 「ふたりで夕食を」 『ディナーで殺人を(下)』創元文庫収録
 である。
 杉江氏が参照した邦訳『ブラッディ・マーダー』(新潮社)は、私は所持していないので、底本とした版がよく分からないのだが、1992年の最終改訂版の原書を参照する限りでは、シモンズはシリーズの総数には言及していない。
 他方、ジョン・クーパー&B・A・パイク編“Detective Fiction: The Collector’s Guide”(1994)によれば、確定されたシリーズ総数は37編とされている。
 さらに、同書によれば、単行本未収録作は、
 ‘The Three-foot Grave’ 上記
 ‘Molly the Marchioness’ フィクション・パレード誌1936年2月号(‘The Man Who Married Too Often’と改題されてEQMM誌1948年10月号再録)
 ‘The Holborn Murder’ フィクション・パレード誌1936年4月号(‘The Pluperfect Murder’と改題されてEQMM誌1952年2月号再録)
と、さらに3編あることが分かる。
 これで計37編。どんぴしゃりだ。かくして、この問題は「迷宮入り」ではなく「きっぱりと解決」されたと思うのだが、いかがであろうか。

追記:
 ある方からメールで、某サイトのリストに、未収録短編として「失踪した妻(Wife Missing)」という作品が載っており、シモンズの主張どおり、計38編が正しいのではないかとのご指摘があった。
 ‘Wife Missing’は、EQMM誌1958年3月号に掲載され、のちに『殺人を選んだ7人』(1959)に「かえれマリオン(Marion, Come Back)」と改題されて収録された。
 某サイトのリストのほうが訂正されるべきであろう。
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