G・D・H&マーガレット・コール『ブルクリン家の惨事』

 『ブルクリン家の惨事(The Brooklyn Murders)』(1923)は、コール夫妻の探偵小説デビュー作であり、シリーズ・キャラクターのウィルスン警視の初登場作である。
 本作は、初版は夫のジョージ・ダクラス・ハワード・コールの単独名義で刊行され、執筆の経緯も、彼が病床中の退屈を紛らすために書いたと説明されることが多いが、1933年の再版からは夫妻名義に変わり、後続作も、実際にどちらが執筆したかに関係なく、全て夫妻名義で発表されている。二作目の『百万長者の死』から夫妻の合作になったかのように説明されることも多いが、本作も、妻の助言が全くなかったとも言い切れないし、その後の作品の合作名義がありのままの事実を必ずしも反映しているわけでもなさそうなので、本作もいちおう夫妻の作品という位置づけにしておく。

 幾つもの大劇場や劇団を傘下に収める「ブルクリン演劇協会」の社長、ヴァーナン・ブルクリン卿は、70歳の誕生日を迎え、自邸リスカード邸での祝いの席で遺言状を親族や関係者の前で公表する。
 祝いの席には、ヴァーナン卿の二人の甥と義理の姪も来ていた。甥のジョン・プリンセプは、協会の支配人として卿の跡を継ぎ、甥のジョージ・ブルクリンは劇場などの設計に携わる建築家だった。卿の弟、ウォルタは破産を経験した厄介者で、富豪未亡人との結婚で得た財産も蕩尽してしまい、この夫人の死後、連れ子のジョアン・クーパーをヴァーナン卿が引き取り、邸での接待を切り盛りさせていた。
 ヴァーナン卿は、ジョアンとジョンを結婚させたいと考えていて、この結婚を前提に遺言状を作成していたが、ジョアンは劇作家のロバート・エラリに思いを寄せていて、ジョンと結婚するつもりはなかった。ジョアンは、遺言状の発表の場で自分の意思をはっきりと告げ、場が気まずくなる。
 翌朝、リスカード邸で二人の甥の死体が発見される。ジョン・プリンセプは書斎で頭を殴られ、さらに心臓をナイフで刺されてこと切れていた。死体の下からはジョージのハンカチが見つかる。さらに、ナイフは建築士の扱うタイプのものだったため、捜査に当たったブレイキイ警部はジョージを疑い、逮捕状をとる。
 ところが、ジョアンが、庭にあるギリシア神殿の階段のところに倒れているジョージの死体を見つける。ジョージはヘラクレスの彫像の棍棒で頭を殴られて殺されていた。棍棒からはジョンの指紋が検出され、そばにはジョンが使用していたパイプが落ちていた。
 二人が殺害された時刻はほぼ同じであり、まるで二人が互いを殺し合ったかのような状況だったが、もちろんそれは物理的に不可能だった。この奇妙な状況に当惑したブレイキイ警部は、上司のウィルスン警視に事件の概要を報告するが・・・。

 ウィルスン警視はもちろん重要な役割を演じてはいるが、現場の捜査はブレイキイ警部にほとんど任せ、登場シーンも多くはない。むしろ主役を演じているのは、ジョアンとロバートのカップルだ。ウォルタの潔白を証明しようと独自に調査を進める二人の素人探偵ぶりが親しみを感じさせ、つい彼らの幸せを願ってやりたくなる。ブレイキイ警部の捜査とウィルスン警視の推理、ジョアンとロバートの調査がそれぞれ独自のアプローチを見せ、交差しながら展開していくストーリーにも起伏が感じられるし、「退屈派」のレッテルが不当と思えるほどだ。
 プロットは決して独創的ではないし、むしろこじんまりとまとまった構成だが、発端の謎めいた状況設定といい、図面も挿入しながらウォルタのアリバイを解明していくプロセスといい、いかにも黄金期の作品らしい雰囲気も謎解きファンの興味をくすぐる楽しさがある。
 犯人は比較的早い段階で明らかにされ、焦点は、真犯人の扱いをめぐって思惑の異なる警察側とジョアン=ロバート側の競り合いと駆け引きに移っていく。謎解き偏重の読み方をすると、フーダニットの種明かしの早いことが欠点のように思え、その後の展開がつまらなく感じるかもしれないが、むしろ、焦点が移ったあとの、両者の調査展開のつばぜり合いと一点に収束するフィナーレを演出するために、作者なりに意図したストーリー設計だったとみるべきだろう。まずまずの佳作と評価したいところだ。
スポンサーサイト

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

S・フチガミ

Author:S・フチガミ
お問い合わせ等は
fuhchin6491
(アットマーク)
hotmail.co.jp
へどうぞ

カテゴリ
フリーエリア
天気予報
リンク
検索フォーム
アクセスカウンター
RSSリンクの表示