脱線の余談--それってジャンパー?

 「迷宮課」シリーズの記事を書いていて、ふと、懐かしい出来事を思い出した。私事にわたることながら、ちょっと脱線して、自分の体験も交えつつ、英語と米語、和製英語の混乱などに触れてみたい。
 かつてイギリスでホームステイをしていた時のこと。当時は英会話も拙くて四苦八苦していた頃だが、秋が近づいてきて肌寒さを感じる季節になり、まだ薄着をしていた私に、ステイ先の主人が、「そんな服装で寒くないのかい。ジャンパー(jumper)を着ればいいのに」と言った。「ジャケット(jacket)なら持ってますよ」と答えると、「ジャケットじゃない。ジャンパーだよ」とさらに言われて、ポカンとしてしまった。私の当惑した様子に、そのご主人、実物を持ってきて見せてくれたものだ。
 そしたら、なんと、それはセーターではないか。「これ、セーター(sweater)ですよ」「いやいや、ジャンパーだ」と押し問答になり、素直な私はそれ以上言い逆らわず、「持ってないので、今度の週末、買ってきます」と言って、マークス&スペンサーのセーター・・・いや、ジャンパーを買ったものだった。
 その押し問答のあと、辞書を引いてみたのは言うまでもない。すると、‘jumper’はイギリス英語でプルオーバーのセーター(sweater)のことだと分かり、また一つ勉強したと、自分を納得させたものだ。時がたってから、あるアメリカ人にそのエピソードを話したら、「そうさ。汗をかく(sweat)ことを、イギリスではジャンプする(jump)と言うんだよ」とふざけられてしまった・・・。
 長々と思い出話をして恐縮だが、なぜこんな話をするかと言うと、『迷宮課事件簿1』の収録作に「黄色いジャンパー」という作品があるからだ。原題は‘The Yellow Jumper’。そして、原作者のヴィカーズはイギリス人だ。これはどう考えても、「黄色いセーター」と訳さないとおかしいのではないか。
 いずれにしても、日本人の使う「ジャンパー」は和製英語で、英語ではむしろ「ジャケット(jacket)」と言う。‘jumper’をそのまま「ジャンパー」とは訳せないはずなのだ。仮にアメリカ英語だとすると、「ジャンパースカート」の意になるので、ますます原作と筋が合わなくなる。
 早川文庫のカバー・イラストには、作中に出てくる手がかりが描かれているが、そこで描かれているイラストも、やはり日本人の言う「ジャンパー」だ。もちろん、翻訳を読んだ上でのことだろうから、画家の方を責めることはできないのだが、さすがに苦笑してしまった。
 漫然と読んでいると、そのまま流れてしまいそうになるのだが、本筋に影響のない誤訳ならともかくも、手がかりがかなめのシリーズだけに、こうした根幹に関わる勘違いは、機会があれば訂正してほしいものである。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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和製英語や海外の言葉の違いは場合によっては大きなイメージの違いになる場合もありますよね…
それこそアメリカとイギリスの文化や単語や綴りでも違う場合があると聞くと、そこから翻訳して日本語に移すとなるとイメージに差ができることもありますよね…
原文を読めればいいのですが、英語が読めないさらには海外の文化や慣習の知識のない自分は翻訳に頼るしかないのですが、そのあたりできちんと訳せる担当者であることを願うばかりです…

長文失礼しました

作品によっては、アメリカ英語とイギリス英語の違いをプロットに活かしたものもあります。
クリスティの『オリエント急行』は有名な例ですが、今度翻訳が予定されているという
マクロイの長編もそうですね。
以前、記事でも書きましたが、刑事コロンボの「ロンドンの傘」という作品は
ロンドンに行ったコロンボが戸惑いっぱなしのシーンが幾つも出てきて楽しめます。
もっとも、字幕や吹き替えではさすがに分からないのが残念なところですが。
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