ボワロー=ナルスジャック『女魔術師』

 ボワロー=ナルスジャックの作品は、しばしば現実と夢幻の世界が交錯するような不思議な雰囲気を持っている。『めまい』などはその典型だったが、この『女魔術師』(1957)も独特の雰囲気を醸し出すことに成功した作品といえるだろう。
 奇術師として各地を巡業していた父の死により、寄宿学校の生活から、母親とともに奇術の興行に加わることになったピエール。入れ替わりの奇術を売りにしている一座の双子の娘と奇妙な三角関係に陥り、その関係をめぐって母親と対立するなか、娘の一人が謎の死を遂げる・・・という展開。
 一座の一人が警察に出頭して不可解な証言をする冒頭から、主人公ピエールの寄宿学校時代にシーンが移るフラッシュバックの手法も巧妙で、その後のストーリー展開への興味をかき立てるだけでなく、事件の核心がどこにあるのか、謎解き的な関心をそこで植えつけられることになる。
 登場人物の数を最小限に絞り込んで、主人公の孤独な心理を濃厚に描き出す手法もいつもながらで、苦悩の中で成長し、自分の芸を確立していくピエールの描写は、このコンビ作家の作品の中でも出色のものだ。
 心理的なサスペンスと合理的な謎解きとを巧みに融合させ、謎の解明ととともに大団円を迎えるプロットも彼らの得意とするところだが、前作の『牝狼』ほどではないものの、そこがやや説明的になってしまうところが弱いところか。『悪魔のような女』や『めまい』のように、解明とともに、それまで見えていた世界が一気に逆転するような鮮やかさも希薄ではある。ただ、フラッシュバックによる冒頭場面とラストがうまくかみ合わされ、全体の構図がすっきりと見えるようになる構成などに、プロットをよく練り上げた跡がうかがえる。
 確認してみると、ボワロー=ナルスジャックの作品は入手困難になっているものが多い。本作も既に品切れになって久しいようだが、最近重版になった次作『技師は数字を愛しすぎた』よりも、これまでここでご紹介してきた作品のほうが、このコンビ作家の特質がよく表れていると思うだけに、このまま埋もれさせるのはいかにも惜しい。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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