ジョン・ロード “Death at the Helm”

 “Death at the Helm”(1941)は、プリーストリー博士が登場する長編。

 カドマスという小さな港の沖を航行していた一隻のモータークルーザーが、急に進路を狂わせ、港湾の砂浜に突進して座礁する。目撃した漁師の親子が船内に入って乗員を探すと、操舵室内に男と女が倒れて死んでいた。
 クルーザーは「ロニセラ号」という船で、借主は建築技師のジョージ・ファーニンガムと判明する。捜査を担当するジミー・ワグホーン警部は、ジョージの弟で、チェルシーで画家をしているテッドを訪ね、死体が兄であることを確認させるが、もう一人の死体はオルガ・クァーレンデンという女性であることも分かる。オルガの夫はヒュー・クァーレンデンという、ジミーもよく知っている著名な法廷弁護士だった。
 二人の死体に外傷はなく、検死解剖の結果、死因は植物性アルカロイドによるものと判明するが、テッドは二人が心中したものと考え、さほど驚きを示さなかった。テッドによれば、ジョージは長年、女性との交際に無縁だったが、オルガの兄で、職場の同僚のジャック・ベノヴァーに紹介された彼女に惹かれてしまい、オルガも夫ヒューと折り合いがよくなかったことから、二人はたちまち道ならぬ恋に陥ってしまったという。
 妻の不倫を察知したヒュー・クァーレンデンは、離婚は認めないと彼女に通告し、オルガは追い詰められていた。ジョージの父親のクラレンス・ファーニンガム卿は、マンチェスターに住む文具卸売会社の社長だったが、自分勝手に芸術の道を進んだ弟のテッドより、堅気なジョージのほうを大事にしていた。ところが、厳格な倫理観の持ち主だったクラレンス卿は、ジョージの不倫を決して許さなかっただろうし、兄を相続から排除しただろうという。
 ジミーは単純な心中事件とみていたが、事件に関心を持ったプリーストリー博士は疑問を呈し、船内に残っていた、オルガが摘み取ってきたらしい植物のサンプルを持ってくるよう依頼する・・・。

 ロードにしては珍しく人物描写に焦点を当てたプロットを特徴とする長編だ。自由でドライな気質を持つ画家のテッド、法曹らしい慎重さと冷静さを示すクァーレンデン、愛する妹の死に動揺を隠せないジャックなど、一人ひとりの個性を描き分けようとした跡が随所ににじみ出ている。特に、二人の死に対する道義的な責任を追及しようとするクラレンス卿にクァーレンデンがクールに応対するシーンなどは、人物描写が不得手(というか無関心)とされるロードにしては、珍しい見せ場ともいえる。“A Catalogue of Crime”のバーザンとテイラーも、クァーレンデンとジャックの人物描写を「よくできている」と褒めている。
 大団円も、こうした人物の描き分けにふさわしく、『ハーレー街の死』を連想させるような、一筋縄ではいかないオチの付け方になっている。ただ、そこはやはりロードで、深みのある性格描写とまではいかないし、かえって中途半端なプロットのような印象を与えて損をしている。
 ジミー・ワグホーンが捜査の前面に出てくるこの頃になると、プリーストリー博士はめっきり登場場面が減り、本作でも、ウェストボーン・テラスから一歩も出ていないし、登場するのも中間近くになってからだ。解決の付け方も、プロットの性格にもよるのだろうが、博士は示唆や助言を与えはするが、自分の推理で謎解きをするわけでもない。中途半端に人物中心にプロットを構成するより、ロードらしく鮮やかな謎解きを期待したかったところだ。
 米初版ダスト・ジャケットはなかなか魅力的であり、アップしておく。

Death at the Helm
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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