ピーター・ゴドフリー ‘Hail and Farewell’

 ‘Hail and Farewell’は、EQMM誌1954年11月号に掲載されたゴドフリーのノン・シリーズ物の短編。同号はコンテスト受賞作として3つの短編を掲載しており、ゴドフリーの本作はその一つ。

 バーのカウンターでカクテルを飲んでいる男の隣りに、新たに店に入ってきた女が座り、カクテルを注文する。女は、ぼんやりとグラスをくゆらせている男の腕に手を触れて注意を引き、時間を尋ねる。男は腕時計を見て6時6分前と答え、正確かどうかを問う女に、この5年間狂ったことはないと断言する。
 女は友人と待ち合わせの約束があるが、カクテルを飲むくらいの時間があるか確かめたかったのだという。女と男はさらに少しばかり会話を交わし、女は別れ際にもう一度時間を尋ね、男は6時2分前と答える。女がドアに向かって去っていくと、男は「また会えるかな?」と聞き、女はにっこり笑って「だめよ」と答え、「さよなら」と告げる。男は最後にフランス語で「さよなら(Au revoir)」と言う・・・。

 ほんの4分ほどの男女の何気ない出会いと別れを冒頭で描くのだが、続けて、女の心理描写を交えながら同じ場面を再現し、実は女が自分を捨てた男を殺してきたことが明かされる。女は、殺した男の腕時計の針を6時5分前に動かしてから壊し、アリバイ作りのために、バーでたまたま隣り合わせになった男に執拗に時間を尋ねたのだった。
 これに続けて、今度は男のほうの心理描写を交えながら、もう一度同じ場面が描かれるのだが、最後にシニカルな結末が待ち受けている、というストーリー。
 冒頭の編者解説にもあるように、「空白の時間」や「そして、ときは変わった」など、ゴドフリーには、時間という要素をプロットのかなめに用いた佳作が幾つかあるが、本作もその一つ。「その4分のなかに人生全体の歳月が凝縮しているようだ」という編者の評は本作の特徴をうまく言い表しているといえるだろう。
 ロルフ・ルルー物のような謎解きではなく、犯罪小説というべきものだが、短いながらもゴドフリーの本領が発揮された面白い作品だ。


EQMM1954-11
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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