ジョン・ロード “Licenced for Murder”

 “Licenced for Murder”(1958)は、プリーストリー博士の登場する長編。

 ファムフォードという田舎にヒンクリー醸造が所有する「ナッパーズ・アームズ(火打石職人の腕)」という酒場があった。長年にわたってアシュモア夫妻が賃借して経営していたが、夫妻も既に年老い、健康不安もあることから、娘の勧めに従って店をたたむことに決めたと、ヒンクリー醸造の社長、ゴッドストウ氏に通告してきた。
 ゴッドストウ氏は、酒場の立地条件や設備の悪さから考えて、新しい賃借人を見つけるのは難しいと覚悟しつつ広告を出したが、思いもかけず、アシュモア夫妻が出ていく前に、ビルストン夫妻というロンドン在住の夫婦から賃借の申し込みがあった。夫のクロード・ビルストン氏は精神病院の看護師であり、夫人のグレースは会社勤めをしていたが、かねてから仕事を辞めて田舎で酒場を経営してみたいと夫婦で考えていたのだという。
 ところが、夫妻が引っ越してきて、酒場の経営も軌道に乗り始めた頃、ビルストン氏が、気まぐれに家の奥にある大きな部屋の暖炉を塞いでいた波型鉄板を取り外してみると、そこに黒焦げになった識別不能の死体があるのを発見する。
 事件はスコットランド・ヤードのジミー・ワグホーン警視が担当することになるが、ジミーは関係者に聞き込みを続ける中で死体の身元の手がかりをつかむ。前の賃借人だったアシュモア夫妻の娘、ジェシーは地方の役所に勤めていたが、彼女の夫、ケネス・リドゲイトが行方不明になっていたのだ。
 ケネスは石鹸工場に勤めていたが、妻に書置きを残して家を出ていってしまい、それ以来消息が知れないという。ケネスの身体の特徴は、暖炉で発見された死体の特徴とよく一致していた・・・。

 本作はロードの晩年に書かれた作品の一つであり、この頃の作品には読むに堪えないほど退屈でプロットに締まりのないものが多い。そんな中にあって、本作は珍しく評判がよく、ロードが最後に見せた一瞬の輝きとも言える佳作である。
 “A Catalogue of Crime”のバーザンとテイラーは「巧妙なプロット」と評しているし、アンソニー・バウチャーも書評で「謎解きは見事であり、殺人にも推奨に値する新奇さと巧妙さがある」と称賛しているようだ。ただ、両者とも展開がスローだと述べていて、確かに後期のロードらしく、中間部の尋問シーンや議論などの埋め草が退屈さを催させるのも事実だ。プリーストリー博士も、例によって土曜の夜の会合でジミーに忠告を与えるだけで、登場場面は少ない。
 しかし、冒頭で事件が起きた後、最後の謎解きに至るまでの間にこれといった大きな事件の起きないこともロードの作品では珍しくないのだが、本作では、ストーリーの中ほどまで来て、ビルストン夫妻と同居するために越してきた伯父がごく普通の風邪で死んでしまうという第二の事件が起きる。そこから、事件は新たな展開を見せるようになるのだが、この事件のおかげで、いつもなら中だるみしそうになる展開をなにほどか回避できた面もあるように思える。
 プロットは後期の作品にしてはなかなか錯綜していて、(都合のいい偶然が重なる面はあるものの)よく練られた跡がうかがえるし、ロードの作品中でも比較的上位に位置する作品といえるかもしれない。ただ、惜しむらくは、プリーストリー博士があまりにあからさまな助言をジミーに与えるため、勘のいい読者ならそれを手がかりに途中でプロットをほぼ見抜いてしまいそうなところが一番の難点か。サービスが過ぎて隠し方が下手なのもロードの欠点のようだ。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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