ジョン・ロード “Death in the Hop Fields”

 “Death in the Hop Fields”(1937:米題“The Harvest Murder”)は、プリーストリー博士が登場する長編。

 カルヴァーデンという田舎町には、毎年9月のホップ収穫の時期が来ると、ホップ摘みの労働者が大量に流れ込んでくる。町にはレイモンド氏の営むパブ「マトリング・チェカーズ」があり、多くのホップ摘み労働者たちが仕事を終えるとパブに押し寄せ、ビールやリンゴ酒を楽しむのが常だった。
 ところが、この平穏な町にあるパドック=クロフトという家が窃盗に入られる。シティでの仕事を引退して5年前から住んでいるスプレイト氏の家で、盗まれたのはスプレイト夫人の宝石類だった。地元警察のラッジ巡査部長はスコットランド・ヤードに応援を求め、ジミー・ワグホーン警部が派遣されてくる。
 窃盗犯は置いていった宝石箱に指紋を残していて、それがクリストファー・エルヴァーという、汽船の元船室係のものと分かる。エルヴァーは9年前に、麻薬の取引に関与した罪でジミーの上司であるハンスリット警視に逮捕され、2年前に釈放されていた。
 エルヴァーがロンドンからカルヴァーデンに来るまでの行動は既に突き止められ、写真なども出回って、姿を隠すことも困難なことから、未だにカルヴァーデンの近隣に潜んでいると思われたが、エルヴァー自身も盗品もまったく消息が知れなかった。
 窃盗のあった晩、町で持て余し者のラヴィスという男が、「チェカーズ」で飲んだ後、酔って自転車から落ち、再び自転車に乗ってパドック=クロフトに通じる道を去っていったのが目撃されていた。ラヴィスはエルヴァーの知り合いと分かり、事件への関与を疑われるが、本人はエルヴァーが逮捕されて以来会ったことがないと言い張る。
 それからしばらくして、「チェカーズ」から1マイルほど離れたところにあるパーショア氏のバンガローが火災を起こす。氏に解雇された恨みを持つラヴィスに放火の疑惑が向けられるが、ラヴィスは出火時に別の場所で目撃されていて、管理していた女性の証言からも出火時にバンガローに人がいた可能性はないと分かる・・・。

 ロードの傑作の多くは、私の知る限り、1930年代に集中しているが、多作のせいもあってか、それでも中にはどうしようもない凡作が紛れ込んでいる。本作もその一つと言っていいだろう。
 エルヴァーとラヴィスのつながりから、一見無関係に見える窃盗事件と放火事件の接点は何かという、いかにも思わせぶりな謎が提示されるのだが、最後に待っているのは落胆ものの結末だ。火災の謎も、ロードらしいハウダニットではあるが、取り立てて斬新さもないトリックに感心する読者はまずいないだろう。
 最大の謎はエルヴァーの消息で、プリーストリー博士は殺人の可能性を示唆するが、死体の隠し場所もさほど驚くようなものではない。ただ、本作のタイトルからして、殺人事件であることは最初から読者には自明なのだが、事件は窃盗と放火という設定のまま展開していき、大団円に至るまで殺人であることが明らかにならない。
 どうやら、本作でロードが描きたかったのは、ホップ摘みに精を出す労働者たちや彼らで賑わうパブの様子だったと思われる。パブの経営はこれが最後だといつも口にしながら、決して店をたたもうとしないレイモンド氏とその家族の造形など、ロードにしては珍しく、背景や人物に心から親しみを抱きながら描写に力を入れたことが窺える。
 中心となるトリックと謎解きも、それ自体に主眼があるというより、それをよすがに、意外と知られていないホップの収穫や乾燥のプロセスを読者に伝えたいという作者の意図が感じられる。作者はここでは肩の力を抜いて、謎解きやプロットの構築に力を注ぐより、作品の取材で触れたホップ収穫の現場や町の魅力をじっくりと描きたいと思ったのかもしれない。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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