ジャック・フットレル「幽霊の女」(五)

 ハッチンスン・ハッチが一時間後にやってきた。なにやら意気揚々として興奮している様子だった。《思考機械》は、実験室の大きな椅子にゆったりと寝そべり、穏やかな表情をして、指をぼんやりもてあそんでいた。
 「訴訟のことだね、ハッチ君」と振り向きもせずに言った。
 「ええ、彼がなんらかの形で関わっている訴訟案件はたくさんありますよ」とハッチは告げた。「けれど、なかでも一つだけ・・・」
 「財産権に関する訴訟だろう?」と科学者は口を挟んだ。
 「ええ」と記者は言った。「ひと財産持ってますし、不動産も莫大でしてね。マーティン・ペンデクスターという、ミルズの共同経営者が、三、四年前に死にました。彼には二十二歳くらいになる孫がいるんですが、その孫が、財産と不動産をミルズから取り戻す訴訟を起こしてるんですよ。ペンデクスターが死んだのをいいことに、ミルズが勝手に独り占めしたと申し立ててね。ミルズはまったく応じようとせず、耳を貸そうともしなかったものですから、結局、その青年は提訴に及んだわけです。裁判は何度も延期されてきたんですが、まもなく審理に入る予定です」
 「すると、ミルズ氏は、その不動産の権利書を持ってるんだね?」《思考機械》は尋ねた。
 「自分の立場は安泰だと思わなかったら、案件を法廷に持ち込ませたりはしませんよ」とハッチは答えた。「ミルズは、ペンデクスターから取った、不動産の権利放棄証書を所持していて、法廷でそれを持ちだすつもりじゃないかと思いますね。青年に提訴しないよう何度も忠告したんですが、わけは決して話さなかったようです」
 「ほう!」科学者はしばらく何も言わず座っていた。「むろん、そうだな」と物思いにふけりつつも声に出して言った。「すると、幽霊の女は、その中の・・・」
 「まだあるんです」ハッチは辛抱しきれずに話を続けた。「ダウニー刑事がさっき教えてくれたんですが、警察は、残されていた道具箱から、その夜書斎にいた人物の身元を、少なくとも一人特定したそうです。その男の名は、ルビー・レーガンですよ」
 「ルビー・レーガンね」科学者はじっと考えながら繰り返した。「そう、彼なら、隣の部屋で寝ているよ」
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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