ジャック・フットレル「幽霊の女」(六-完)

 ミルズ、マロリー部長刑事、ハッチンスン・ハッチは、《思考機械》が語るのを聞いていた。
 「もはやなんの謎もない」と科学者は言った。「経緯を簡潔に説明しよう。窃盗犯は、ミルズさん、あなたを告訴している男に雇われたのだ。その目的は、あなたの書斎に忍び込み、係争中のペンデクスターの不動産に対する、あなたの所有権を証明するのに必要な書類を見つけることだった。そんな書類があるとしての話だがね。
 さて、この窃盗犯は、書斎に入って書類を探したが、いわば無駄骨だった。探索の途中で箱の中に金を見つけたものだから、誘惑に負け、おそらくは受けた指示に反して、その金をポケットに入れたわけだ。そのあと、リボルバーを突きつけられ、いやおうなく金を箱に戻したのだが、脅しに慌てて、自分の十ドル紙幣まで箱に入れてしまったのだ。金を戻すよう命じた者とは・・・つまり・・・」
 彼は口を閉ざし、紙片になにか書きつけてミルズに手渡した。
 「なんですと!」ミルズは信じがたい様子で叫んだ。
 「名前は口にしないでください。今はまだね」と科学者は相手をさえぎった。「ともかく、その人物は女性だった。いわば、非常に勇気があり、大胆ですらある女性ですな。彼女は窃盗犯のリボルバーを押さえ、武器を二つ握った上で窃盗犯に命じたのだ。窃盗犯は格闘に持ち込み、おそらくは偶発的に銃が発砲された。金属の箱を貫通したのはその銃弾だよ。窃盗犯は窓から飛び降りて逃走した。部屋にいた女性は、窃盗犯が忍び込んできたとき、おそらくはドアのカーテンのうしろに隠れていた。彼が探していたのと同じ文書を手に入れるために、すでにその部屋にいたのだね。おそらく、彼が飛び降り、ドアが大きく開いて、あなたと使用人のオブライエンが突入したときに、彼女はうまく玄関ホールへとすり抜けたのだ。
 次に分かっているのは、その女性がなにか別のことで叫び声を上げたということだ。少し論理的に考えれば分かることだが、最初の騒動のあと、家は再び静寂を取り戻し、その女性は、オブライエンが寝ずの番でいることを知らず、再び書斎に戻って、書類を探そうとしたのだ。オブライエンは真っ暗な中を座っていたが、彼女が入ってくる音が聞こえたので、電灯をぱっとつけた。彼女は驚いて叫び声を上げ、オブライエンは相手が誰なのか気づいた。そこで、はっきりは分からないが、おそらくは金を握らせるとか、なにか手を使って、姿をくらますようオブライエンを説き伏せた。またもや彼女は見つからずにすんだ。調査がなされたとしても、たぶん、彼女はベッドで寝ているところを見つかっただけだろう。
 ひとまず、発砲や窃盗犯の逃走に至るまでの経緯を度外視すれば、論理的な精神によって把握し得る最初のポイントは、金属の箱に、実際にあるはずの額より多額の金があったという事実だ。したがって、その箱は開けられたのだが、窃盗犯が下心のない男だったか、あるいは下心を妨げられたかのいずれかだと分かる。さらに、三十八口径のリボルバーのほかに、二つ目のリボルバーも見つかり、しかもそれが発砲されたという事実からも、そのことが分かるわけだ。窃盗犯なるものに下心がないはずがない。その男は、金を戻すよう強いられたのか? では、その部屋に窃盗犯と二人だけで、どんな人物が金を戻すよう要求したというのか? すぐさまいろんな可能性が思い浮かぶだろう。
 さしあたり、こうした可能性を追求するのは控え、まずは窃盗犯、というか、下心のあった男を見つけるという課題に取り組んだ。難しい課題ではなかったよ。ただ、電話をかけまくって、おそらくは自動車事故――そう、お見込みのとおりさ――で負傷した男を治療していた医者を探すという、面倒な作業ではあったがね。こうして、マロリーさん、君が身元を特定した、ルビー・レーガンを見つけ、彼からまず事の経緯を教えてもらった。白ずくめの女、幽霊の女ということは、明らかに屋敷内の女だ。白いレースの寝間着は、夜中の二時に野外で着る服としては普通ではないからね」
 「こんな話がどうしても必要なのですか、ヴァン・ドゥーゼンさん?」とミルズが口を挟んだ。顔が真っ青だった。「こうなると、身内の問題だということがはっきり分かってきましたし、私たち家族にとっても重大事になりかねません」
 《思考機械》は、その問題を退けるかのように手を振った。
 「ミルズさん、あなたのためにも、あえて申し上げるが」と科学者は話を続けた。「彼女の行動は大きな勇気を伴うものだが、その動機は、あなたへの誠実さを示すものであると同時に、おそらくは、もう一人の男への好意を表すものでもあるのです。お分かりですかな? 彼女はなんらかの形で、レーガンに依頼してひと仕事させるという計画を知った。おそらく、その男が彼女に話したのでしょう。愛という性質を帯びた関係がなければ、男からそんな情報は得られなかったはずです。あなたへの誠実さもありますが、その男の企みがあなたに知られてはならないという自然な思いから、彼女は自分でその書類を見つけようとしたのですよ。窃盗犯と同じ夜に書斎に忍び込んだのは、まったくの偶然だったのです」
 《思考機械》は、すべて話し終えたとばかりに口を閉ざした。
 「いやいや、話を続けてくださいよ」とマロリー部長刑事は食い下がった。「ほかの事実も知りたいですな」
 「マロリーさん、ご自分でレーガンを見つけてはどうかな?」《思考機械》はしばらくして言った。「私にはできた。君にも必ずできるさ」
 「やつはどこに? どこでやつと会ったんですか?」
 「私の家で会ったのさ」と科学者は穏やかに答えた。「ここに来るときに、家に残してきたよ。だが、私にあんなことまで告白しては、いつまでも私の家などにぐずぐずしてはいないだろう。事情は私が申し上げたとおりですよ、ミルズさん。不動産を手放さない理由をあの青年に説明しようとしないのは、それなりにわけがあるのでしょう。なので、私もあえて問いただそうとは思いませんよ」
 「お話ししますよ」ミルズ氏はいきなり顔を上気させた。「彼はペンデクスターの実の孫ではないんです。彼が私を訴えたら、その証拠を示さざるを得なくなる。だから、提訴しないように忠告してきたんですよ」
 「そんなことだろうと思っていましたよ」と《思考機械》は言った。

 ルビー・レーガンは、その夜遅く、タクシーで《思考機械》の家を去った。数日後、ペンデクスターに関する訴訟は、原告により取り下げられた。
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