フランスの研究家が選ぶ「天下一品」の密室ミステリ

 最近、『完全版 密室ミステリの迷宮』(洋泉社)という楽しいムック本が刊行された。ご存知の方も多いと思われるので、内容の紹介は省かせていただくが、その中で、フランスの密室ミステリ研究家のロラン・ラクルブらが昨年刊行した“1001 Chambres Closes: Guide de lecture du crime impossible”が紹介されている。
 フランス語は苦手なので、十分読みこなしたわけではないのだが、上記ムック本でも紹介されているとおり、密室ミステリ千一冊を取り上げて解説したガイド本である。
 同書で五つ星を与えられて「天下一品」と評価された作品のリストをご参考までに挙げておこう。長編計47作、短編計27作である。

長編
アンソニー・アボット  About the Murder of a Startled Lady
ガストン・ボカ  L’Ombre sur le jardin
ピエール・ボワロー  三つの消失
ピエール・ボワロー  殺人者なき六つの殺人
ボワロー=ナルスジャック  悪魔のような女
レオ・ブルース  三人の名探偵のための事件
ジョン・ディクスン・カー  絞首台の謎
カーター・ディクスン  黒死荘の殺人
カーター・ディクスン  赤後家の殺人
ジョン・ディクスン・カー  三つの棺
ジョン・ディクスン・カー  火刑法廷
カーター・ディクスン  孔雀の羽根
カーター・ディクスン  ユダの窓
ジョン・ディクスン・カー  曲がった蝶番
カーター・ディクスン  爬虫類館の殺人
ジョン・ディクスン・カー  死が二人をわかつまで
ジョン・ディクスン・カー  囁く影
ポール・カルタ  Crimes temporels
アガサ・クリスティ  そして誰もいなくなった
ウルフ・デュルリンク  Pour un bout de fromage
アレクシ・ジェンスール&シャルル・グレニエ  La mort vient de nulle part
アラン・グリーン  くたばれ健康法!
ポール・アルテ  第四の扉
ポール・アルテ  赤い霧
ポール・アルテ  七番目の仮説
ポール・アルテ  L'image Trouble
ポール・アルテ  Le Géant de Pierre
ポール・アルテ  La Ruelle Fantôme
ミシェル・エルベール&ユージェーヌ・ウィル  La Maison interdite
マルセル・ラントーム  騙し絵
マルセル・ラントーム  La Treizieme balle
ガストン・ルルー  黄色い部屋の謎
クレイトン・ロースン  帽子から飛び出した死
ルネ・ルーヴァン  Tobie or not Tobie
ジョエル・T・ロジャーズ  赤い右手
島田荘司  占星術殺人事件
ピエール・シニアック  Un Assassin, ca va, ca vient
ジョン・スラデック  見えないグリーン
デレック・スミス  悪魔を呼び起こせ
ヘイク・タルボット  絞首人の手伝い
ヘイク・タルボット  魔の淵
アラン・トーマス  The Death of Laurence Vining
ジャン・ポール・トロク  L’Engime du Monte Verita
ルイ・フェルナンド・ヴェリッシモ  Borges et les oranges-outangs eternels
ノエル・ヴァンドリー  La Bete hurkante
ノエル・ヴァンドリー  Le Double alibi
ノエル・ヴァンドリー  A Travers les Murailles

短編
ロバート・アーサー  51番目の密室
J・バリーヌ  Le Témoignage de l’enfant de chœur
ジョン・ディクスン・カー  妖魔の森の家
G・K・チェスタートン  秘密の庭
ジョゼフ・カミングズ  黒魔術の殺人
ジョゼフ・カミングズ  Ghost in the Gallery
ジョゼフ・カミングズ  海児魂
ジョゼフ・カミングズ  Xストリートの殺人
アーサー・コナン・ドイル  ソア・ブリッジ
ヴィンセント・コーニア  待っていた弾丸
ジャック・フットレル  十三号独房の問題
ポール・アルテ  ローレライの呼び声
ポール・アルテ  La Hache
エドワード・D・ホック  長い墜落
エドワード・D・ホック  不可能な“不可能犯罪”
エドワード・D・ホック  レオポルド警部の密室
エドワード・D・ホック  幽霊殺人
エドワード・D・ホック  有蓋橋の謎
エドワード・D・ホック  古い樫の木の謎
エドワード・D・ホック  オランダ風車の謎
エドワード・D・ホック  ジプシー・キャンプの謎
エドワード・D・ホック  青い自転車の謎
ロナルド・A・ノックス  密室の行者
ウィリアム・クローン  サタヌス博士の不可能殺人
ヘレン・マクロイ  鏡もて見るごとく
ジャック・リッチー  クライム・マシン
サミュエル・W・テイラー  罠


 ただ、気になるのは、巻末に挙げられたこのリストと、本編の解説とでは、星の数が必ずしも一致していないことだ。例えば、アボットの“About the Murder of a Startled Lady”は、本編では4つ星になっているし、このブログでも以前紹介したウィンズロウ&カークの“Into Thin Air”は、巻末リストでは4つ星なのに、本編の解説では5つ星になっている。このあたりは、版を重ねる機会があれば、訂正がなされるのかもしれない。
 島田荘司の『占星術殺人事件』をリストアップしているのは、我が国のミステリ・ファンにとっては嬉しい限りだろうし、ほかにも、スウェーデンのデュルリンクやブラジルのヴェリッシモなど、国・地域への目配りが行き届いているのが興味深い。
 その一方で、自国フランスの作家の作品に対して評価が甘い印象があり、ボワローの『三つの消失』やラントームの『騙し絵』などは、フランスのミステリにありがちな拍子抜け物の典型だし、『悪魔のような女』を密室ミステリとして評価するのもどうかと思われる。
 カー、ホック、カミングズが多数選ばれているのは、英語圏のアンソロジー等と同様の傾向で、フランスにおいてもポピュラーなことが窺えるが、自国フランスの作家では、我が国でも人気のあるポール・アルテのほか、最近、ROM叢書で紹介がなされたノエル・ヴァンドリーが3冊選ばれているのが目を引く。今後さらなる紹介が期待されるところだろう。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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No title

これを見るとカミングスの短編集が読んでみたくなりますね。アンソロジーで幾つか読んだ覚えはありますが。どこかの出版社で出ないでしょうか。
アルテも翻訳が続いていればなぁ……と。

いや、まったく。
クリッペン&ランドリュの「ロスト・クラシック」シリーズもかなり翻訳が出ましたが、カミングズの“Banner Deadlines”は、我が国で出れば好評を博しそうなのに、どこも翻訳を出そうとしないですね。
アルテも、ここしばらく停滞しているし、どうなってしまったんでしょう・・・。
ところで、もうじきクリスティを読破されるようですね。『未完の肖像』も読まれたのであれば、ジャレッド・ケイドの『なぜアガサ・クリスティーは失踪したのか?』もきっと興味深いですよ(自伝を読んでからのほうがいいかもしれませんが)。巷間言われるような、単なる暴露本ではないですしね。ご参考までです。

No title

コメント返しありがとうございます!
そうなんですよクリスティーも自伝だけですね後は。オススメ頂いたのを自伝の後に読んでみたいです。
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