アガサ・クリスティ 戯曲『蜘蛛の巣』

 『蜘蛛の巣』(Spider’s Web)は、映画女優のマーガレット・ロックウッドからの依頼により書かれた戯曲である(初版刊行は1956年)。邦訳の解説には必ずしも経緯の詳細が書かれていないので、ここで簡単にご紹介しておこう。
 1953年に、ロックウッドは、『ホロー荘の殺人』と『ねずみとり』の舞台劇を成功させたプロデューサーのピーター・ソーンダーズに、エージェントを通じて働きかけ、クリスティに自分のために劇を書いてもらえないか打診してくれるよう依頼した。ソーンダーズは、レストランでクリスティとロックウッドを引き合わせ、コメディー・スリラーを書いてほしいというロックウッドの希望を容れてクリスティが書いたのが『蜘蛛の巣』である。ロックウッドが演じた役のクラリサという名前は、クリスティの母親の名から採られたと言われている。
 初演は、1954年9月にシアター・ロイヤル・ノッティンガムで行われたようだが、フレンチ版の冒頭のデータでは、同年12月14日にロンドンのサヴォイ・シアターで行われた初演データが載せられている。ウェスト・エンドでの初演をデータとして優先させたということだろう。プロデューサーは、やはりピーター・ソーンダーズで、同劇場での公演は774回に及ぶロングランとなり、同時期に『ねずみとり』と『検察側の証人』も他劇場で並行して上演されていた。1955年5月7日の公演には、エリザベス女王と夫君のフィリップ殿下、妹のマーガレット王女も観覧されたという。まさにクリスティの「劇場での黄金時代」のピークだったと言える。
 なお、端役のせいか、ロックウッドに比べてあまり注目されていないが、初演でジョーンズ巡査を演じたのは、デズモンド・リュウェリン。長年、007のシリーズでQを演じた俳優である。
 標題の『蜘蛛の巣』は、エンディングに近いシーンでクラリサが引用しているように、ウォルター・スコットの詩「マーミオン」に由来する。‘Oh, what a tangled web we weave, when first we practice to deceive.’という一節で、以前の記事で書いたように、オースティン・フリーマンの「パーシヴァル・ブランドの替玉」の雑誌掲載版でも引用されているし、ニコラス・ブレイクの長編『くもの巣』の標題も同じ詩に由来するものだろう。
 この戯曲も、2000年にチャールズ・オズボーンによるノベライズ版が刊行されているが、邦訳はない。
 フレンチ版初版に掲載されている舞台写真を以下にアップしておく。(なお、フレンチ社の1999年版では、著者生誕百周年記念公演の際の舞台写真も併せて掲載されている。)


蜘蛛の巣
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