アガサ・クリスティとマージェリー・アリンガム

 “The Return of Mr. Campion”(1990)は、アリンガムのアルバート・キャンピオン物の未収録短編を集めた短編集である。米セント・マーティンズ・プレス社の版には、編者J・E・モーパーゴの序論に続いて、アガサ・クリスティによる‘Margery Allingham―A Tribute’が収録されている。
 はっきりそうとは書かれていないが、内容から判断して、これはアリンガムの逝去(1966年)に際しての追悼文と思われる。
 クリスティは、「探偵小説作家は同業者の作品を読むのか」という質問をよく寄せられるとし、少なくとも自分は、既に使われたアイデアを繰り返さないためにも、頻繁に読むと答えている。
 ただ、その質問に込められた意味は、「読んだ探偵小説の中で本当に記憶に残るものはどれだけあるか」ということであり、その意味でなら、そんなに多くはないと答える。そして、「マージェリー・アリンガムは輝く光のように際立っている。彼女の作品はそれぞれが独特の姿を持っている」と称えている。(この言葉は、アリンガムのペーパーバックをはじめ、ロバート・バーナードの『欺しの天才』など、いろんなところで引用されている。)
 クリスティは、幻想的なものと現実的なものを織り合わせるのがアリンガムの作品の特徴だとした上で、もう一つの特質として「気品(elegance)」を挙げ、そうした特質を備えた作家は今日では稀だとしている。
 ちなみに、アリンガムの夫、フィリップ・ヤングマン・カーターは、“The Allingham Case-book”に寄せた序文の中で、アリンガムが、同時代作家の中で称賛していたのは、ジョセフィン・テイととりわけアガサ・クリスティだったとし、クリスティには生き生きとした「知性(intelligence)」があると考えていたことを明らかにしている。両作家が互いに尊敬し合っていただけでなく、相手の特質を的確に捉えていたことがうかがえる。
 クリスティは、誉めるばかりでなく批判も述べていて、『霧の中の虎』や『殺人者の街角』に登場するルーク警部については、成功していないし、思考力に欠けていると手厳しい。クリスティにとっては、スリラー系の作品も独特の雰囲気を持つものとして評価に値したが、やはり探偵小説の本領は思考力を要する謎解きにあると考えていたのだろう。「気品」と「知性」というそれぞれの特質を考え併せても、彼女とアリンガムの違いを表しているようで興味深い。
 なお、クリスティがアリンガムの作品のベストとして挙げているのは『幽霊の死』である。
 最後にクリスティはこう結んでいる。「ブラボー! マージェリー・アリンガム。私たち作家仲間はあなたのことを忘れはしない。」
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