J・J・コニントン “The Twenty-One Clues”

 “The Twenty-One Clues”(1941)は、警察本部長のクリントン・ドリフィールド卿と地主のウェンドーヴァーが登場する長編。

 ラフォード警部のところに、列車の運転士と火夫がやってくる。彼らは、列車の走行中、道路を挟んだ線路の向かいにある、ワラビの茂みに覆われた丘の中腹に、男女二人が横たわっているのを目撃したという。そこは恋人たちが逢引する場所として知られ、彼らもこれまで列車から逢引の現場をよく見かけていた。ところが、露でびしょ濡れになりそうなのに、朝8時頃にそんな場所に寝そべっているのも不審だったが、二時間後に通りかかった時も同様に横たわっていたことから、様子がおかしいと感じた二人は警察に報告に来たのだった。
 ラフォード警部が巡査を連れて現場に行ってみると、はたして、二人の男女が死んで横たわっていた。二人は頭部を銃で撃たれて死亡しており、男の死体のそばには、コルトのオートマチックが落ちていた。女性の指には内側にイニシャルの彫られた結婚指輪がはめてあり、男のポケットには、ロンドン行きの列車の二人分の切符とスーツケース二つの手荷物預かり証があった。一緒にロンドンへ行く予定だったが、気が変わって現場に来たものと思われた。
 死体の周囲には引き裂かれたラブレターらしき手紙の断片が散らかっていた。ラフォード警部は、そこに書かれた住所から、ファーン・バンク在住の公認会計士コーリスを訪ね、写真を見せて身元確認を求める。その結果、死体はエスター・コーリス夫人とジョン・バラットという教会の牧師と判明する。バラットは、キリスト教の特殊なセクト「覚醒したイスラエル」教団の牧師で、ヘレンという妻がいた。コーリス夫妻はともに教団の信者で、それぞれ教団の仕事の役割を持っていた。
 現場に落ちていた銃には指紋が残っていて、バラットの指紋と判明する。銃はコーリスの所持品で、コーリス夫人が持ち出してバラットに渡したものと思われた。夫人がはめていた結婚指輪のイニシャルも、バラットと自分のイニシャルを彫ったものだった。警部は、不倫の果ての単純な心中事件と見ていたが、その後の調査から、現場にはオートマチックの薬莢が四つ落ちていたことが分かる・・・。

 クリントン卿は休暇中で物語の半ばまで登場しないが、第6章で、ピーター・ダイアモンドという青年記者がラフォード警部と論じながら、「ドリフィールド方式」なるものに言及する。「彼ならこう言うさ。死者が二人いるとする。考えられる可能性は次のとおり。一、事故。二、自殺。三、殺人。あるいは、事故と自殺。事故と殺人。自殺と殺人・・・等々と簡潔な数学的公式にまとめる。それから、証拠を吟味して、絶対にあり得ない選択肢を一つ、また一つと排除していく。最後に、真の解決が目の前に残っている」というわけだ。第14章でも、ウェンドーヴァーが、「君はこのバラット事件をハッセンディーンとシルヴァーデイル夫人の事件と同じやり方で扱おうとしてるんだろう」と、九つの解答の組み合わせから消去法を行っていく方式に言及している。
 ハッセンディーンとシルヴァーデイル夫人の事件とは、“The Case with Nine Solutions”(1928)の事件のことであり、このように、本作は同書を強く意識していることが随所で窺える。実際、事件の構図も、不倫の果ての男女の死という外観がそっくりであり、おそらくは当時も好評を博し、今日も代表作の一つと見なされている同書の成功をもう一度狙ったというところだろう。
 “The Case with Nine Solutions”では、クリントン卿とフランボロー警部が九つの組み合わせに基づく解決案を論じ合う場面が見せ場だったが、本作では、タイトルにもあるとおり、第10章で、クリントン卿、ピーター・ダイアモンド、ウェンドーヴァーの3人が、事件の手がかりと思われるものを順に挙げていき、答えに詰まったら負け、最後まで残った者が勝者というゲームをして、全部で21の手がかりを提示する。クリントン卿は‘Choose Your Clue’と呼んでいるが、日本で言えば山手線ゲームのようなものだ。
 大団円では、クリントン卿がすべての手がかりをパズル・ピースのように見事に当てはめて事件の絵解きをするのだが、それはそれで面白いし、筋道立ってもいるものの、全体の出来栄えとしては“The Case with Nine Solutions”には及ぶまい。
 “The Case with Nine Solutions”では、九つの組み合わせの可能性について、一つ一つ蓋然性を論じ、消去していくところに議論としての醍醐味があったが、本作では、ただ思いついた手がかりをばらばらに挙げていくだけのことで、それ以上に掘り下げた議論が伴うわけではないし、手がかりを総合していくのも大団円の謎解きにおいてだけだ。さらに、“The Case with Nine Solutions”では、最後にクリントン卿のノートの抜粋でまとめられた理路整然とした謎解きも見どころだったが、本作では謎解きにもそれほどの冴えは見られない。
 しかも、消えた25ポンドのお金、希少コインのダブル・フロリンなど、細々した謎を盛り込んでプロットを錯綜させてはいるものの、中心となる謎は意外と単純で、勘のいい読者なら、まどろっこしい議論など経なくても、おそらく事件の発端の段階で真相を見抜いてしまいそうだ。(ジャック・バーザンも、「からくりは非常に早い段階で見抜けてしまう」と述べている。) ストーリーも、“The Case with Nine Solutions”では、霧の中で事件が起きる発端から、「ジャスティス」という謎の密告者が登場し、とんでもないクライマックスへと至る展開がそれなりに読み応えのあったのに比べると、どうにも展開が鈍くて退屈でならない。
 ‘A Catalogue of Crime’のバーザンとテイラーは、どうやら意見が分かれたらしく、バーザンは、「“The Case with Nine Solutions”の設定の貧弱な焼き直し」と酷評しているが、テイラーのほうは、「決して悪くない」と異議を唱えている。
 どちらの言い分もそれなりにもっともで、バーザンの言うように、柳の下に二匹目のドジョウを狙った試みではあるのだろうが、過大な期待を抱かなければまずまず楽しめる佳作と言えそうだ。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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