ジョン・ロードの埋もれた佳作

 ジョン・ロードの作品はかなりの数を読んだけれど、評判のよさそうな初期作品を中心に読んできたせいか、そんなに印象は悪くない。
 ただ、全体の傾向として、ロードにはメカニカルな仕掛けのトリックがあまりに目立つ。しかも、短編ネタにふさわしいシンプルなトリックが多いのに、これをベースに長編の長さにまで引き延ばしてしまうため、結果として、どうしても退屈で迂遠な議論で紙数が埋められ、読者はうんざりさせられてしまうのだ。ジュリアン・シモンズがロードを退屈の代名詞のように見なしたのも仕方ない面がある。ロードが、長編で用いたプロットを短編に集約していたなら、エドワード・ホックのように短編の名手として評価を確立していたのではないかと思えるほどだ。
 人物造形の薄っぺらさもロードの弱いところで、シリーズ・キャラクターも初登場時には詳しく描かれるのに、後続の作品ではおざなりになる傾向がある。プリーストリー博士の助手、ハロルド・メリフィールドも、“The Paddington Mystery”では、殺人の容疑者となり、父の友人だった博士や、博士の娘エイプリルとの関係などが詳しく書き込まれ、魅力のある青年として描かれるが、後続作では紋切り型の登場人物になってしまう。“The Claverton Mystery”で初登場するオールドランド医師も同様だ。
 もちろん、メカニカルな仕掛けでも、なかには感心させられるものもあるが、多くは使い古されたトリックの焼き直しだったり、今日では時代遅れになったものも少なくないため、どうしても点が辛くなる。邦訳のある『見えない凶器』はその典型。マイルズ・バートン名義の傑作とされる“Death in the Tunnel”や“Death Leaves No Card”もそんな類のものだし、最近読んだ“The House on Tollard Ridge”や“Murder at Lilac Cottage”も同様の理由でがっかりさせられた。
 むしろ、『ハーレー街の死』や“The Claverton Mystery”のように、中心となる科学知識はやや専門的としても、決して複雑になりすぎず、仕掛けそのものより全体のプロット構成を工夫した作品はまだ読み応えがある。
 サマセット・モームは、“The Decline and Fall of the Detective Story”(探偵小説の衰亡)の中で、書名を挙げずに幾つかの推理小説のプロットに言及しているが、その中にロードの“Peril at Cranbury Hall”、“Hendon’s First Case”が含まれている。
 “Peril at Cranbury Hall”は、炭疽菌を用いた殺人を扱っていて、ある意味、時代を先取りした作品といえるし、“Hendon’s First Case”も、教本の類によく出てくる有名なトリックを用いた作品だが、モームはいずれも非現実的すぎて納得できないトリックと見なしている。
 好みの問題かもしれないが、数は少ないものの、変に凝ったメカニカルさを感じさせず、クリスティのようにシンプルなミスディレクションや心理的なトリックを用いた作品に出来のいいものが多いように思う。
 “The Hanging Woman”やバートン名義の“Murder M.D.”、小粒ではあったが“The Robthorn Mystery”などがよい例だろうか。“Dr. Goodwood’s Locum”は特に見事で、個人的にはイチオシの作品だ(バリー・パイクも“The Detective Fiction: The Collector’s Guide”でパースナル・チョイスに挙げている)。
 “The Paddington Mystery”、“The Davidson Case”、“Mystery at Greycombe Farm”、“The Motor Rally Mystery”などは、さほど独創的なトリックを用いているわけではないが、よく練られた構成が好印象の作品だった。
 後期に入ると、肝心のプロット自体も拍子抜けのものが多くなり、冴えを失って衰えを感じさせ、ますます読むに耐えないものが多くなる。とはいえ、初期の作品でも、“Mystery at Olympia”(あのキノコ型のパーツ!)や、何の取り柄もない“Dead Men at the Folly”、“Nothing But the Truth”のようなチョンボ作もある。
 個人的にベスト3を選ぶとすれば、“The Claverton Mystery”、『ハーレー街の死』、“Dr. Goodwood’s Locum”だろうか。続々と翻訳・紹介するに値するかどうかはともかくとして、現役本だけで紹介が終わるには惜しい作家ではある。

パディントンの謎
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