御礼――ロード『代診医の死』

 『代診医の死』が完売したとのご連絡を須川氏からいただいた。須川氏が会われた人の間では大変評判がよかったとのことで、氏にも喜んでいただいたし、そう伺って私も嬉しく思っている。刊行にあたって御尽力いただいた須川氏、並びに、読んでいただいた皆様に改めて感謝申し上げたい。
 私が直接知る限りでは、アンフェアだと憤る意見はほとんど聞かれなかったが、意見が分かれたのは、やはり、中間部の尋問や議論の部分に関してだろう。こうした部分が退屈だというのが、ロードを批判する人たちによく見られる意見なのだが、本作に関しても、そうした意見が聞かれた。反対に、推理小説としては当然のプロセスであり、さほど退屈とも思わなかったという意見も少なくなかったように思う。
 推理小説を謎とその解明から成り立つものと捉え、作者と読者の挑み合いと考える読者は、こうした議論を作者が読者に提示した手がかりと見なして舐めるように読むだろうし、こうした議論を通して事件の経緯をおさらいしたり、問題点を整理するのに役立てたりするものだ。『見えない凶器』の解説で述べておられるように、故加瀬義雄氏もまさにそうした読者の一人で、加瀬氏のような筋金入りの謎解きファンにとっては、「本当はこれこそ探偵小説の一つの面白さ」ということになる。
 私も、客観的に見れば、単純に息抜き的な娯楽としてミステリを読む読者の多くは、そこまで深く読み込むことはしないし、むしろストーリーを漫然と読み流していくタイプの読者がマジョリティを占めていると思うから、ロードを退屈と思う読者が多いのは仕方がないとも感じている。シモンズのような犯罪心理小説の讃美者がロードを嫌うのも、その意味ではよく分かる。
 失礼ながら、議論部分の存在が致命的なほど退屈だという感想を持つ読者は、それだけ漫然と読み流すような読み方しかしていないと白状しているようなものだし、(私自身も、それなりに議論をフォローし、反芻したおかげでプロットが見抜けたのだが、)こういう読者ほど、作者が提示したせっかくの議論の整理を読み飛ばしてしまうために、プロットを見抜ける(作者との勝負に勝てる)人は少ないように思えた。
 ロードはやはり筋金入りの本格ファンに向いた作家だと改めて認識したし、その意味では、これからも大衆読者層に浸透するような人気を獲得することはあるまい。しかし、『見えない凶器』や『吸殻とパナマ帽』などを読んで「ロードの作品は時代遅れ」と思い込んでいた本格ファンに、ロードの真価を再認識してもらい、未紹介の作品にも読むに値する傑作が眠っているのではないかという期待を抱いてもらえたのであれば、ご紹介した意義は十分にあったと思っている。それこそ、加瀬氏が望んでおられたロードの「復権」に寄与できたのであれば、加瀬氏に対するなによりの御恩返しができたのではないかと思っている次第である。改めて加瀬氏の御霊に感謝の気持ちを伝えたい。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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