アガサ・クリスティ “Hercule Poirot and the Greenshore Folly”

 昨年、キンドル版で出た“Hercule Poirot and the Greenshore Folly”が、ようやくハードカバーで出版された。電子書籍というものに未だなじめないせいか、紙媒体で出るのを待っていたのだ。私にとって、クリスティの初版本を現役で買ったのは、“While the Light Lasts”に次いでこれが二冊目である。
 本作は、1954年に、クリスティ自身が礼拝に通っていた、チャーストン・フェラーズの「聖処女マリア教会」が内陣のステンド・グラスの窓を新たに購入するための資金に寄付する目的で書かれた中編である。舞台もクリスティのお膝元に設定されていて、近くを流れるダート川の光景にポアロが感嘆するシーンがあるように、グリーンショア・ハウスは、明らかにデヴォン州のクリスティの邸宅、グリーンウェイ・ハウスをモデルにしたものである(『死者のあやまち』ではナス・ハウスとなっている)。
 ところが、「帯に短し、たすきに長し」。雑誌掲載の稿料を資金に充てるつもりが、中編という中途半端な長さのために売れず、彼女はこれを長編『死者のあやまち』(Dead Man’s Folly)に改稿して別途出版(1956年)。教会の基金のほうには、代わりに、ミス・マープルものの短編「グリーンショウ氏の阿房宮」(Greenshaw’s Folly)を執筆して寄付したという(タイトルこそ似ているがストーリーは別物)。その結果、本作は60年もの長きにわたって埋もれたままになってしまったわけだ。本編自体は120頁ほどの中編で、ストーリーも『死者のあやまち』とほぼ共通している。
 ダスト・ジャケットのデザインは、1960年代から70年代にかけてクリスティのペーパーバックのカバー・イラストを手がけたトム・アダムズが描いている。アダムズはさらに、本作の「まえがき」も執筆し、イラストを手がけるようになった経緯やクリスティとの思い出について語っている。
 さらに、クリスティの孫、マシュー・プリチャードが「序文」を書き、本編のあとに、『アガサ・クリスティーの秘密ノート』の著者、ジョン・カランが‘Agatha Christie and the Greenshore Folly’を書いて、執筆の経緯を明らかにしている。
 かつては、ポアロものは、長編33、中・短編53、戯曲1の計87編と覚えたものだが、その後、「クリスマスの冒険」、「ポワロとレガッタ」が増え、さらに、『アガサ・クリスティーの秘密ノート』に掲載された「ケルベロスの捕獲」、「犬のボール」が加わって、4編も増えてしまった。
 さらに今度は本作が加わり、中・短編は58編、ポアロものは計92編となったようだ。これで本当に最後なのだろうか・・・。嬉しい驚きは何度味わってもかまわない。
 次は、戯曲“Chimneys”の刊行を期待したいところだ。この戯曲は、長編『チムニーズ館の秘密』をベースにしたもので、もともと1931年にローレンス・オリヴィエ主演で舞台化される予定がキャンセルされ、そのまま埋もれてしまった。70年後に原稿が発見され、2003年にカナダのカルガリーで初上演されている。いずれ日の目を見ることだろう。
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