マージェリー・アリンガム ‘Meet Albert Campion’

 知人からの情報によれば、創元文庫から『キャンピオン氏の事件簿』が刊行予定だという。創元のメールマガジンにはそんなこと何も書いてなかったのだが、本当なら嬉しいニュースだ。(追記:新たに届いたメルマガの近刊案内によれば、『窓辺の老人』(The Case of the Old Man in the Window and other stories)という、オリジナル短編集とのこと。著者エッセイも収録とあるから、‘My Friend Mr. Campion’あたりが収録されるのかもしれない。)
 BBCラジオで放送された“Meet the Detective”というシリーズ企画については、以前ご紹介したし、その中の「フレンチ首席警部ご紹介」も当ブログに掲載した。ある人がこのシリーズについてBBCに直接照会するなどして、セイヤーズが参加を断ったとか、音源はもうBBCには残っていないということまで突き止めたようだ。
 しかも、どうやら1935年に単行本化された際に収録されなかった幻の記録もあるようなのだ。例えば、ジョン・ロードの‘Meet Dr. Priestley’もあったらしいのだが、放送の記録があるだけで中身は不明。音源が残っていないとなると、あとは、著者自身の遺稿の中に原稿が残っているのを期待するほかない。
 アリンガムにも‘Meet Albert Campion’があるのだが、これは幸いにも、マージェリー・アリンガム協会が2000年にアルバート・キャンピオン生誕100年記念として刊行した“The Albert Memorial”に収録されている。(『甘美なる危険』にも載っているように、キャンピオンは1900年5月20日生まれなのだ。)おそらく原稿が残っていたのだろう。J・E・モーパーゴー編“The Return of Mr. Campion”(1989)収録の‘My Friend Mr. Campion’はこれに手を入れたもので、内容的にはほぼ同じだが、‘Meet Albert Campion’のほうがオリジナルのテキストのようだ。
 「アルバート・キャンピオン」というのが偽名で、その出自についても謎に包まれていることはファンの間ではよく知られている。初登場作の“The Crime at Black Dudley”(1929)では、第10章で貴族の家の出であることが明かされ、第24章では、同作で主役を務めるジョージ・アバーショウから正体を聞かれ、「僕の母が誰か知ってるかい?」とアバーショウに秘密を耳打ちして驚かせるが、それ以上の情報は明らかにされない。次作『ミステリー・マイル』(1930)では、正体を知る敵から「ルドルフ・K――」という名前で呼ばれ、本名の一端が明かされる。“Police at the Funeral”(1931)では、父方の祖母のエミリーが貴族の未亡人とされているし、やはりキャンピオンの正体を知るファラデー夫人から「ルドルフ」と呼ばれている。『屍衣の流行』(1938)でも、姉のヴァルをはじめ、手がかりがいろいろ出てくるが、やはりはっきりしたことは分からない。
 ロジャー・ジョンスンが、上記“The Albert Memorial”に収録された‘Oh! K-! Thoughts on Mr. Campion and His Family’で、各作品に出てくる手がかりを詳細に跡づけ、キャンピオンは子爵(Viscount)の家の出だとして、詳細な家系図まで載せているが、このように、キャンピオンの正体はそれだけで立派な研究のテーマになってしまうほどなのだ。
 もっとも、アリンガム自身は、‘Meet Albert Campion’の中で、「彼が何者で、本名を何というかは、勝手に打ち明けるわけにいかないというだけでなく、私もそもそも知らないのだ」とあっさり認めている。「私は彼が好きだし、自分は彼の親友だと思っているけれど、私にとっても彼はいまだに謎なのだ。」
 アリンガムは、このエッセイの中で、1927年初めから取り組んだ“The Crime at Black Dudley”執筆の経緯を明らかにしながら、キャンピオンというキャラクターを造形していった過程について語っている。その後、『ミステリー・マイル』、“Look to the Lady”(1931)、“Police at the Funeral”、『甘美なる危険』(1933)、『幽霊の死』(1934)と続く彼の冒険譚を紹介していくが、キャンピオンが本格的な謎解きに取り組むのは、ようやく5作目の“Police at the Funeral”になってからであり、それ以前の作品はいずれもスリラー小説か冒険小説と呼ぶべきものだった。アリンガムは、同作を執筆するまでは、キャンピオンに殺人の謎解きをさせようとは思っていなかったし、その役割はスコットランド・ヤードのスタニスラス・オーツ警部にさせるつもりだったと打ち明け、キャンピオンが「窮地や恐るべき敵の手から脱する生来の能力を持つだけでなく、まぎれもない観察や推理の能力を発揮する頭脳を持っていると知って嬉しく思ったし、驚きもした」と述べている。
 “Meet the Detective”のシリーズの放送は1935年のことであり、アリンガムはこのエッセイの中で、その時点で『判事への花束』(1936)の執筆に勤しんでいることに言及している。アリンガムは、最後に再び、キャンピオンの本名も家柄も知らないと繰り返しつつも、彼は軽率に口を滑らすこともあるから、と含みを持たせながらこのエッセイを締めくくっている。
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