作者による探偵たちの紹介 “Meet the Detective”

 マクゴワン編“Sleuths”は、アンソロジー収録作品への導入を目的とした探偵たちの略歴紹介だったが、“Meet the Detective”(1935)は、名探偵が創造されるに至った経緯、その魅力や特徴などを作家自身が紹介するという趣向の本である。
 もともとBBCラジオで放送されたシリーズ企画をテープ起こししたものであり、時にはラジオならではの面白い趣向も取り入れられている。(ある人が調べたところによると、セイヤーズもBBCから参加を呼びかけられたが、断ったらしい。)
 収録作品を列記すれば以下のとおり。(章題のオリジナルは、‘Meet Bull-dog Drummond’という具合に、いずれも‘Meet ○○○’で統一されている。)

 はじめに  セシル・マッデン
 1.ブルドッグ・ドラモンド      「サッパー」
 2.アノー               A・E・W・メイスン
 3.フー・マンチュー博士      サックス・ローマー
 4.紅はこべ             バロネス・オルツィ
 5.ガン・コットン           ルパート・グレイスン
 6.タイガー・スタンディッシュ   シドニー・ホーラー
 7.ウェルズ博士           フランシス・D・グリアスン
 8.フレンチ首席警部        フリーマン・ウィルズ・クロフツ
 9.フォーチュン氏          H・C・ベイリー
 10.トレント              E・C・ベントリー
 11.フィニアス・スピネット      アンドリュー・スーター
 12.ウィルスン警視          G・D・H&M・I・コール
 13.ソーンダイク博士        R・オースティン・フリーマン
 14.ザ・セイント            レスリー・チャータリス
 15.ユースタス・ヘイリー博士    アンソニー・ウィン


 今こうして見ると、既にほとんど忘れ去られた探偵(作家)も少なくない。オルツィは、隅の老人でもレディ・モリーでもなく、より有名な冒険小説の主人公のほうが取り上げられている。
 マッデンの前書きでは、偉大なシャーロック・ホームズを加えなくては完全なものにならないとして、ホームズ誕生のエピソードを語るドイルの残した録音も掘り起こして紹介されている。
 ドイルは、恩師ベル博士やポーの影響を受けてホームズを創造したという、よく知られた話に触れた上で、彼を実在すると信じた世界中の人びとからたくさんの手紙を受け取り、中には結婚の申し込みすらあったというエピソードを紹介している。
 生真面目な紹介が多い中で、フレンチ警部の章は、作者のサービス精神とユーモアが溢れていて面白い。
 クロフツは、ホームズを受け継いだような知的で個性的な探偵は既にたくさんいるし、そんな人物を一貫した存在として描くのは困難だという理由から、敢えてフレンチを平凡で退屈な人物に創造したと語っている。
 クロフツは、「彼本人をマイクの前に連れてくるほうが皆さんに理解してもらいやすいだろう」と語り、ラジオというメディアを活かして、フレンチ本人をスタジオに呼んで語らせるという趣向を取り入れている。初めのほうではフレンチを隣の部屋に待たせておいてクロフツ一人が語り、途中からフレンチをスタジオに招き入れて、二人でトークするという展開になる。フレンチは、クロフツから、君の最悪の5分間について語ってくれと求められ、『英仏海峡の謎』であやうく殺されそうになったエピソードを語る。
 なお、フリーマンによるソーンダイク博士の章は、パシフィカから出ていた『名探偵読本5 シャーロック・ホームズのライヴァルたち』に「ソーンダイク博士をご紹介」という題で邦訳が掲載されている。
 いかにも黄金時代にふさわしい遊び心と趣向を感じさせる企画であり、古き良き時代へのノスタルジーを感じさせるだけでなく、今読んでもけして古臭くない面白さを保っている。
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テーマ : ミステリ
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