もう一つの戯曲「そして誰もいなくなった」

※「そして誰もいなくなった」の小説版と戯曲版のネタバレをしていますので、未読の方は御留意ください。


 クリスティが戯曲化した「そして誰もいなくなった」が、オリジナルの長編と結末が異なるものであり、ルネ・クレールやピーター・コリンスンなどによる映画化作品が戯曲版に基づいていることは、このブログでも何度か紹介してきたところである。
 ところが、ネットのレヴューなどを見ていても、戯曲版の結末は小説版に比べて支持者が少ないようだ。それだけ小説版は人気の高い作品であり、愛着の強い読者も多いからだろう。
 元の小説版の結末では、文字通り誰もいなくなってしまう。だが、その結末は、小説では描写できても、人の動きで成り立つ舞台ではどうにもうまく表現しにくい。ヴェラが首を吊るシーンでいったん幕を下ろし、調査に訪れた人たちが現場で真相を語るというのも、クライマックスとしては尻すぼみだし、あるいは、ウォーグレイヴ判事がヴェラの自殺後に舞台に姿を現し、真相を独白して自殺というのも、やはりアンチ・クライマックスだからだ。
 その意味で、クリスティは、ヴェラとロンバードを生き残らせることで舞台にふさわしい見せ場をうまく作ったし、戯曲版の結末は小説版と比べても甲乙付け難しと、私などは思うのだけれど、どうやらこれは少数意見のようだ。うーむ、残念!(笑)
 というわけで、おそらくは多数意見の読者の希望もあってか、なんと、小説版のプロットをそのまま反映した戯曲「そして誰もいなくなった」を執筆してしまった人がいる。今年6月に62歳で亡くなった、ケヴィン・エリオットというイギリスの脚本家である。代表作は“My Night With Reg”というゲイとHIVをテーマにした戯曲なのだそうな。
 エリオットは、ポワロとミス・マープルのテレビ・シリーズの脚本も9本手がけた人で、昨年11月にリリースされた、デヴィッド・スーシェ主演の「カーテン」の脚本も彼が手がけたものだ。
 そのエリオットが脚本を書いた新版「そして誰もいなくなった」は、2005年10月にロンドンのギールグッド劇場で初演が行われた。残念ながら観たことはないし、単行本化されてもいないので、詳細は不明なのだが、小説版のとおり、ヴェラとロンバードは死に、ウォーグレイヴ判事が最後に自殺する結末とのこと。ただ、近年の版を反映して、島の名は「兵隊島」となっているらしい。
 ところが、この作品、クリスティ自身の戯曲とは対照的に、観客の評判は芳しくなかったらしく、公演は翌2006年1月に打ち切られている。もちろん、具体的な中身を見ていないので、不評の原因がオリジナルを活かしたプロットにあるのか、それとも、ほかの脚色部分にあるのか、はたまた役者の演技のせいなのか、なんとも言えない。いずれサミュエル・フレンチ社あたりから台本版を刊行してほしいところだ。
 だが、私が興味をそそられるのは、むしろ、クリスティ自身が構想しかかっていたという「そして誰もいなくなった・2」のほうだ。
 ジャネット・モーガンによれば、これは、元の戯曲で生き残ったヴェラとロンバードが再会して夕食をともにするという構想だったらしい。結局立ち消えになったこの劇の案が具体化していたら、どんなストーリーになっていたのかと興味津々なのだが、小説版の熱烈な支持者なら、そんなものは絶対に認めようとしないだろうなあ・・・(笑)
スポンサーサイト

テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

プロフィール

S・フチガミ

Author:S・フチガミ
お問い合わせ等は
fuhchin6491
(アットマーク)
hotmail.co.jp
へどうぞ

カテゴリ
フリーエリア
天気予報
リンク
検索フォーム
アクセスカウンター
RSSリンクの表示