アガサ・クリスティの戯曲のカバー・イラスト

 アガサ・クリスティは、さすが「ミステリの女王」だけあって、いくら発行部数が多かったとはいえ、その初版本はコレクターズ・アイテムになっているし、特に戦前のダスト・ジャケット付きともなると、目を丸くするほどの値段が付くようだ。ダスト・ジャケットもいろんなサイトにアップされているし、近年、ハーパー・コリンズ社が初版のファクシミリ復刻版を出したので、手にされた方もいるだろう。
 ところが、戯曲のほうは、小説ほど注目されにくいせいか、あまり話題にならない。クーパー&パイクの“Detective Fiction: The Collector’s Guide”も戯曲の書誌までは載せていないし、“Artists in Crime”にも戯曲版の表紙は取り上げていない。私の知る限りでは、戯曲を詳しく扱ったものとしては、‘Book and Magazine Collector’1998年9月号に掲載された、リチャード・ダルビーによる‘Spotlight on Agatha Christie’という解説があるぐらいだろうか。
 なお、以前も言及したが、フレンチ社の初版には、初演時の写真が挿入されているものが多いが、その多くは現行版では省かれている。特に、「検察側の証人」では、ウィルフリッド卿の事務室と中央刑事裁判所の場面、「死との約束」では、キング・ソロモン・ホテルのラウンジとペトラの野外キャンプの場面と、それぞれ二枚の写真が初版には挿入されている。
 舞台配置図も、「死との約束」や「評決」のように、初版には載せているのに、なぜかフレンチ社の現行版では省かれているものもある。「死との約束」に至っては、現行版はト書きまで簡略化され、(不妊女性への配慮からなのか)登場人物のセリフを勝手に省いたりしていて、いささか越権行為的なテキストの改変すら行われているのに気づく。ハーパー社等の戯曲集版もセリフに省略箇所があるし、「死との約束」は版の間でテキストにかなりの混乱があるようだ。以前も触れたように、「そして誰もいなくなった」も、フレンチ版と戯曲集版にはかなりの異同がある(二つある邦訳はいずれもフレンチ版に基づいているようだ)。
 ダルビーの解説にも写真が幾つか掲載されているが、小説と違って戯曲のカバー・デザインを見ることは滅多にないので、この機会にちょっとご紹介しておこう。
 フレンチ社の初版は、主にブルーのものとベージュ色のものに分かれている。「そして誰もいなくなった」(1944)、「検察側の証人」(1954)、「蜘蛛の巣」(1957)、「ゼロ時間へ」(1958)、「招かれざる客」(1958)などはブルーの表紙で、これらはいずれもタイトルや著者名等の文字が入っただけのものだ。
 これに対し、「ナイルの殺人」(1948)、「ホロー荘の殺人」(1953)、「ねずみとり」(1954)、「死との約束」(1956)はベージュ色の表紙で、「死との約束」はイラストなしだが、最初の三つは表紙にイラストが描かれている。

 「ナイルの殺人」は、映画でもおなじみのジャッキーがサイモンの足を撃ってしまったシーンが描かれている。

Murder on the Nile


「ホロー荘の殺人」は、ミッジ・ハーヴェイが自分自身の幻の隣りに座っているイラストが描かれている。

The Hollow


「ねずみとり」は、顔のない四人の男のイラストが描かれている。

The Mousetrap


 また、「ブラック・コーヒー」も、1952年のフレンチ社改訂版では、S・ポゴースキーという画家によるポアロのイラストが描かれている。

Black Coffe


 ただ、アマゾンのサイトなどでも見ることができるが、フレンチ社の現行版の表紙もなかなかカラフルでしゃれている。「ナイルの殺人」の、マストにウジャト(ホルスの眼)が描かれた船のデザインなどは実に素敵だ。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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