マイルズ・バートン “The Three Corpse Trick”

 “The Three Corpse Trick”(1944)は、デズモンド・メリオンが登場する長編。

 ウェンディ・バージという中年女性が、グース・コモンという村で行方不明になる。彼女はもともとグース・コモンの住人だったが、今は元の家をマーティン夫妻に貸して、夫のピーターとともにディーニングに住んでいた。
 6月のある日、バージ夫人は、地域の病院への寄付を集めるため、ブリキ製の募金箱を持ってバスに乗り、グース・コモンに向かう。各戸を回って募金を集めながら、ミス・インクペンの家まで来ると、お茶に招かれる。二人の会話はおのずと、二日前に心臓発作で亡くなったマーティン氏の話題になる。マーティン氏の葬儀がその日行われていたが、バージ夫妻は葬儀に出席せず、人を通じて供花するだけにしていた。バージ夫人はマーティン夫人の家にも行くことを考えるが、葬儀で誰もいないからと、ミス・インクペンに止められる。
 そこで、夫人は次に、川に係留されたダーモット・オマリーの住むハウスボートに行くと告げて辞去する。オマリーはアイルランド人で、イングランドに対する敵意を抱く気難しい男だったが、根はいい人間と思われていた。
 翌日、バージ夫人の弁護士、ホップクロフト氏は、約束の時刻になってもバージ夫人が現れないことに不審を抱く。家に電話しても、女中は夫妻が前日から帰宅していないと言うし、前日の夜にバージ夫妻が夕食とブリッジの約束をしていたパーカー夫妻に電話すると、バージ夫妻は結局訪ねて来なかったという。
 ホップクロフト氏はグース・コモンに足を運んで、夫人のことを住人に尋ねて回るが、夫人の行方は杳として知れない。その矢先、夫人の死体が川で発見される。彼女は頭を殴られて殺されたあと、死体に重しを付けて川に捨てられたらしかった。
 捜査に携わることになったスコットランド・ヤードのアーノルド警部は、突如アメリカに向けて船で発ってしまった夫のピーターを最重要容疑者と見なすが、友人のメリオンは異を唱える・・・。

 “The Three Corpse Trick”は、近年では、バートン名義の中でも“Murder M. D.”と並んで評価の高い作品であり、バーザンとテイラーの“A Catalogue of Crime”やカーティス・エヴァンズの“Masters of the “Humdrum” Mystery”なども高い評価を与えているが、加瀬義雄氏は、『見えない凶器』の解説で「話の筋がゴチャついて分かり難い」とやや難色を示しておられる。
 加瀬氏の評のとおり、“Murder M. D.”は「シンプルなプロット」が特徴の佳作だが、それだけに見抜きやすく、私自身も途中でほとんど完全に読めてしまったほどだ。これに比べると、本作は確かに「複雑なプロット」で、容易に見抜けるものではないが、手が込んでいる分だけサプライズ感に乏しい。ただ、まだ脂の乗った時期の作品でもあり、事前にプロットをよく練ったことが窺え、これも加瀬氏が述べておられるように、うまくまとまっている佳作といえるだろう。
 ロード名義の作品に登場するプリーストリー博士は、直感や推測を嫌い、ロジックを重んじるタイプの探偵であり、捜査の方向性だけ示唆を与えておいて、あとは土曜の例会の参加者に好きなように議論を重ねさせ、これを踏まえて最後にツボを押さえた論理を展開して解決を提示するというパターンが多い。
 これと対照的に、バートン名義の探偵であるデズモンド・メリオンは、アーノルド警部からも繰り返し言われているように、豊かな想像力を特徴とする探偵であり、アーノルド警部と議論しながら、ああでもない、こうでもないといろんな可能性を提示して検討し、時には的外れな解決案も自分で提示しながら、最後に正しい解決に行きつくというパターンを辿る。
 どちらも様々な可能性を提示して論じ合いながら解決に至るという基本的なパターンは共通しているのだが、メリオンの場合は、いわば、アーノルド警部を相手役にしながら土曜の例会の参加者の役割を一人で兼ねて議論を重ねるところが特徴といえるだろう。ただ、プリーストリー博士に比べると、いま一つカリスマ性に乏しくて印象が弱いし、謎解きのロジックもシャープさに欠けるところが、博士ほどの人気を獲得できなかった理由の一つかもしれない。
 残念ながら、バートン名義の作品は、これまでのところ完訳されたものが一つもないようだが、場当たり的にプロットを組み立てたような有象無象の作品よりよほど読み応えがあるし、もっと紹介されてもいいように思う。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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