ガストン・ルルー『ルールタビーユの犯罪』

 “Le Crime de Rouletabille”(1921)は、ジョゼフ・ルールタビーユが登場する第6長編。
 『黄色い部屋の謎』の語り手、サンクレールが再び語り手を務めているほか、『ルールタビーユ、クルップに乗り込む』に登場した仲間たちも捜査の協力者として再登場している。

 ルールタビーユの妻、イヴァナは、第一次大戦後、医学の研究に復帰し、ロラン・ブーランジェの研究所で結核の治療法の研究を手伝っていた。ところが、ブーランジェは名うての女たらしで、夫人のテレーズを悩ませていた。テオドラ・ルイジという悪名高い女とも交際していたが、テオドラはその時ちょうど、アルバニアのヘンリー王子とともにフランス国外に去っていた。ブーランジェは、助手のイヴァナにも目を付けるようになっていた。
 ブーランジェ夫妻は、ルールタビーユ夫妻とサンクレールを、ドーヴィルにある彼らの邸、「茅葺き荘」に滞在するよう招待する。ところが、そこへテオドラがヘンリー王子とともに帰国し、カジノでブーランジェと再会する。
 ブーランジェはテオドラの誘いを受けて、彼女が借りている海沿いの別荘「サン・アドレス荘」に赴く。ところが、夫の様子を探りに別荘に赴いたテレーズ夫人が、テオドラと一緒に滞在していたヘンリー王子に誤って銃で撃たれるという事件が起きる。弾は急所を外れ、テレーズは一命をとりとめるが、事態を恐れたらしいヘンリー王子は崖から身を投げて自殺したようだった。警察はテレーズ夫人の事故もヘンリー王子の自殺もともに事故として処理し、スキャンダルを回避するが、ルールタビーユは事件の状況に不審を抱く。
 事件後、ルールタビーユはイヴァナとともにフランスを去って小アジアに行くことに決めるが、彼女は再びブーランジェの研究を手伝うようになる。ブーランジェは、ラ・ローシュ路地に仕事からの息抜きのために過ごす家を借りていたが、イヴァナはブーランジェの誘いを受けてその家に赴く。ルールタビーユはひそかにあとをつけ、二人の様子を探るが、そのまま家を立ち去る。
 ルールタビーユが自分の家に戻ってくると、サンクレールとテレーズ夫人が待っていたが、そこに警察がやってきて、イヴァナとブーランジェがラ・ローシュ路地の家で殺されたことを告げる。二人はそれぞれ二発ずつリボルバーで撃たれ、ブーランジェは即死、イヴァナはまだ息があったが、警察とともに現場に急行したルールタビーユの目の前で息を引き取る。
 目撃情報から、ルールタビーユがその家を立ち去ったのが5時だったと判明するが、ブーランジェの腕時計は5時5分前を指した状態で壊れて止まっていた。ルールタビーユは殺人の容疑者として逮捕され、ラ・サンテ刑務所に拘留される・・・。

 前作『ルールタビーユ、クルップに乗り込む』でルールタビーユにスパイもどきの活躍をさせたルルーだが、本作では、再び純粋な謎解きに回帰している。『黄色い部屋』で語り手を務めたサンクレールを久しぶりに登場させ、再び語り手として起用したのも、これを意識してのことだろう。ルパンもどきの脱獄劇や変装もあったりはするが、ルールタビーユの捜査ぶりを描写しながら『黄色い部屋』を想起させるなど、もう一度謎解きの本流に戻って傑作をものしてやろうという作者の意気込みが随所に感じられるし、ルールタビーユ夫人のイヴァナを犠牲に供してまでもプロットを構築したところにも決意のほどが窺える。
 傑作『黄色い部屋』と比較してはさすがにつらいし、独創性の高いトリックがあるわけでなく、フェアプレイの点でも弱さはあるが、「サン・アドレス荘」の事件では、潮の干満から真相を見抜き、ブーランジェとイヴァナの殺害事件では、足跡の分析や時計とアリバイをめぐる議論を展開するなど、ルールタビーユも再び黄金時代の名探偵らしい推理を披露している。容疑者が限られているため、慣れた読者には見抜きやすいが、フーダッニトと犯人の意外性の面でも見るべきものがあるし、プロットや解決もうまくまとまっていて、出来栄えとしては、スリラー的性格の強い『黒衣夫人の香り』より上位に置いても決しておかしくないだろう。
 クライマックスも、『黄色い部屋』と同じく、舞台は法廷であり、被告不在のまま開始した裁判に姿を現したルールタビーユは、判事や傍聴人の前で事件の真相を明らかにする。真犯人を暴いて追い詰めていくシーンもなかなかドラマチックで読み応えがあるし、この法廷シーンの迫力は『黄色い部屋』と比較しても遜色がない。
 ルールタビーユのシリーズは、『黒衣夫人』以降、次第に安手の冒険小説的性格を強めていったこともあり、この頃になると注目度も薄れていたせいか、本作も正当に評価されないまま埋もれてしまった感があるが、本作を謎解きものとして一定の評価を与えている海外の評者もいる。『黄色い部屋』と『黒衣夫人』以外の作品については、ハワード・ヘイクラフトの『娯楽としての殺人』を含め、ほとんど内容も紹介せずに黙殺している例が多いが、ルールタビーユが探偵としての本領を発揮した長編がほかにもあったことはもっと認識されてもよさそうだ。
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