ローレンス・G・ブロックマン “Recipe for Homicide”

 “Recipe for Homicide”(1952)は、ダニエル・ウェブスター・コーヒー博士が登場する唯一の長編。

 ボブ・ギルモアは、ノースバンクの中西部にあるバルザック・スープ缶詰会社に勤める広報部長だった。ギルモアは、社の宣伝のため、人参の皮をむいて切りそろえる作業に秀でた職員を「キャロット・クイーン」として表彰するショーの演出を担当していた。
 アメリカ陸軍向けに携帯口糧を輸送することにしたバルザック社は、社の愛国心をPRするために、その最初の出荷の際に式典を催す計画を立てていたが、ギルモアは、一般家庭向けのスープ缶詰の販売には影響しないと、総支配人のエヴァンズに反対の意思表示をしていた。それは販売促進部長のバーバラ・ウォールのアイデアだったが、エヴァンズは彼女と談判するようギルモアに指示する。
 実は、バーバラは以前、ギルモアがニューヨークで勤めていた広告会社に勤めていて、ギルモアに解雇された女性だったが、たまたまギルモアの勤めるバルザック社に再就職し、今では立場が逆転していたのだった。二人が話している途中に電話が入り、輸送の目的地が公になることを危惧した陸軍が式典の中止を要請してくる。
 翌日の朝、その携帯口糧の缶詰の品質を吟味する試食会が社内で行われた。試食会には、生産部長のバート・レミントン、調理長のルノルマン、家政科チーフのペギー・ベイリスといった常連メンバーのほか、エヴァンズ、ギルモア、バーバラも参加する。
 ところが、午後になって、ペギーは気分が悪くなり、吐き気やのどの痛みなどの症状を訴える。次第に症状がひどくなったペギーはパストゥール病院に運び込まれるが、そこで息を引き取る。朝試食した携帯口糧の缶詰が原因ではないかと疑ったギルモアは、陸軍向けに出荷した缶詰が汚染されている可能性を示唆してエヴァンズを説き伏せ、パストゥール病院の病理学者、コーヒー博士に検死解剖を依頼する。
 コーヒー博士は、検死解剖の結果、死因はヒ素によるものであることを明らかにする・・・。

 コーヒー博士のほか、助手のムーカージ博士、リッター警部補というシリーズの常連が登場し、いつもの役割を演じてはいるのだが、ストーリーはむしろ、ギルモアとその人間関係を中心に展開していく。肝心のコーヒー博士は登場場面も少ないし、事件の解明も、斬新な法医学上の見識を披露するわけでもなく、その面での意外性やユニークさも乏しくて、コーヒー博士による快刀乱麻を断つような謎解きの見せ場を期待すると裏切られることになる。“1001 Midnights”のビル・プロンジーニも、本作は「さほど成功していない」し、コーヒー博士の才能は短編向きだ、とやや辛口の評を与えている。
 ブロックマンが描きたかったのは、むしろ、主人公のギルモアを中心にした人間模様だったようだ。別れた妻のジーナとの過去、バーバラや「キャロット・クイーン」のフランシスといった女性たちとの関わりや、さらには、バルザック社の内幕、フランシスの夫のクリス、ペギーの夫のジョージの不審な行動などを絡ませた展開に、いかにも当時の世相を反映して「赤狩り」の問題を盛り込むなどしてストーリーを膨らませている。コーヒー博士の謎解きではなく、主人公のギルモアとその取り巻きに視点を移して読めば、登場人物たちもそれなりに描けていて面白い面もあると言えるかもしれない。ギルモアが自分の車のエンジンにダイナマイトが仕掛けられているのに気づく場面など、ミステリらしい見せ場もそれなりにある。しかし、謎解きとして見る限りでは、プロンジーニの評のとおり、さほど高い評価は与えられないし、やはりブロックマンの本領は中短編にあったと言わざるを得ないようだ。
 なお、バルザック缶詰会社は、“Diagnosis:Homicide”収録の`The Phantom Cry-Baby’でも登場した会社であり、その事件についての言及も本編中に出てくる。
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テーマ : ミステリ
ジャンル : 小説・文学

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